BTJ読者海外レポートの第二回目。欧州出張中の工業技術院生命工業技術研究所の根本直氏のレポートです。同氏は欧州におけるポストゲノムシーケンシング時代の「新しい科学と社会の対話のありかたとは」と言うテーマの集会に参加しています。主催はEMBL/EMBO。


カンファレンス2日目に突入しました。

この日は難解な表現の多いセッションでした。最初のセッションはドイツのJens Reich博士がチェアーで、「すべてのヒトのゲノムは異なる、私たちはたった一つの例を手にしたに過ぎない」という言葉からはじまりました。続いてイギリスのPeter Goodfellow博士は「論理的でない皆さんにお会いできて嬉しい」と挑発的に登場しま
したが、企業合併や技術革新で解決すべき「人間の病気について社会が負担すべきコストの低減」にヒトの遺伝情報を利用するという話をしました。

deCode Genetics社のDr. Kari Stefanssonが登場し、ゲノム情報の取り扱いについてアイスランドの例が挙げられました。ご存知のようにアイスランドは家系の追跡が容易かつ住民のコンセンサスが取れた事によって遺伝情報データベースが構築されています。

さて、その実際のシステムが発表されました。病院や診療所から集められた血液試料は遺伝子解析されるわけですが、それに伴った個人情報はアノニマイズされます。また、それを含む生データはエンクリプト、つまり暗号化された上でサーバに蓄積されます。多量のデータに対してバイオインフォマティクスとデータマイニング技術によって解析出来るとの事です。表現型の一つとしての病気は実は単純に一つの遺伝子に関連している場合ばかりではないので、これらの技術で発現量まで勘案した同一家系群の中での相関を再現することが出来ます。ちなみに、データマイニングとは一見無関係とも思える情報から有効な相関関係を導き出す技術で、地域的特色を踏まえたマーケティング戦略の策定などに効果を上げています。気になる個人情報の保護ですが、ベンチャー企業の開発したシステムですから、詳しい事は教えてくれませんでしたが、個人を特定する事は不可能であると説明されました。
問題はさらに、このシステムがアイスランドだけでなく世界的に利用が可能かと言う事ですが、遺伝的特殊性のある地域以外でももちろん適用できるとのことでした。私としては匿名化のプロトコルに興味が湧きました。データの匿名化は個人情報を盗用させない決め手であるか
らです。

パネルディスカッションはBBCの科学系ライター・キャスターのVivienne Parryが出てきて多いに盛り上がりました。今まで、硬いデータの話とその慎重な討論に終始してきた所にいきなり鮮やかな口紅とブラックカーラントよりも濃い色のマニキュアをした活舌な女性が現れたのです。以下、パリー語録を少し書いておきます。

「科学者にコメントを求めると、1分半しかない番組のスポットライトが当る大切な所なのに、あーとかうーとかしか言わないのよ」(社会に対する説明としての科学者のテレビ出演に関して)
「科学者の説明って言うのは『この可能性が7%、別な可能性が15%でその他に考えられることはまず…』ってやるでしょう、それは科学的かもしれないけれど、視聴者はそんな事聞きたいんじゃないのよ、自分たちの聞きたいのは分りやすい結果よ」(同じ)
「私の17になる息子は誰に言われなくたっていつのかまにか(最新の科学技術の詰まった)MP3プレーヤが欲しいと私に言ったわ。問題は一日中歌って踊れるGMOのブロッ
コリーならみんなが欲しがるか、って話なのよ。」
(GMOが社会に受け入れられないという話題から)

 ちょっと芝居っ気が多いなぁとみていると、パネリストの一人、やはり才色兼備、けれど化粧っ気のない(していたのに私が気がつかなかったのかもしれません)アメリカのLudwigガン癌研のコミュニケーション部のディレクターをしているDr.Barbara Cohen が噛み付きました。

「これは、あなたがいかに聡明で、チャーミングで、セクシーかって話じゃなくて『(報道される)科学の質』の話なのよ!」言葉の前半では着席したままであったものの、 Cohen博士は両手を広げて腰と胸を震わす*超*芝居がかった振り付きで舌好調Parry女史にコメントの一撃を加えました。Cohen博士はNature Geneticsの編集者でもあります。其の後の夕食で才色兼備のご両人は隣り合った席に座って仲良く一緒に食事をしている*よう*でしたが。

日本の放送メディアも、底の浅いタレント頼みにするより科学専門という人材を用意して欲しいものです。わかりやすい報道のためのお手伝いなら買ってでますから。

明日は最終日で、バイオビジネスの展望です。(根本直@Heidelberg)


 海外の重要学会や会議に出席した読者からの投稿を掲載いたします。今後、読者からの報告を強化します。これから海外の学会や会議に参加を予定なすっている方は、miyata@nikkeibp.co.jpまでご連絡下さい。海外ではこんな動きがある、こうした問題意識を3万人以上のバイオ研究者と共有いたしましょう。皆さんのご参加をお待ちしております。
 Biotechnology Japan Webmaster 宮田 満


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