海外の重要学会や会議に出席した読者からの投稿を掲載いたします。第一回目は、現在欧州出張中の工業技術院生命工業技術研究所の根本直氏のレポートです。

 今後、読者からの報告を強化します。これから海外の学会や会議に参加を予定なすっている方は、miyata@nikkeibp.co.jpまでご連絡下さい。海外ではこんな動きがある、こうした問題意識を3万人以上のバイオ研究者と共有いたしましょう。皆さんのご参加をお待ちしております。


 今、、欧州におけるポストゲノムシーケンシング時代の「新しい科学と社会の対話のありかたとは」と言うテーマの集会に参加しています。主催はEMBL/EMBOで、ハイデルベルグの郊外の丘の上にあるEMBLのオペロンビルディングにある会議場で3日間に渡って行われます。

 この集会は科学者とジャーナリストやテレビ局など科学者以外の人たちが集まってポストゲノム時代に予想される急激なバイオテクノロジーの社会への浸透を考え、一般の人々と科学者がバイオテクノロジーを語りあうことで望ましい姿を模索しようと言う趣旨です。参加者は200数十名と言う所でしょうか、会場は満席で立ち見の出るほどでちょっと普通の学会とは雰囲気が違います。

 セッションの内容はウエッブを参照して頂くとして、初日はEMBOのDr. Frank Gannonの「EMBOは常に科学の社会に対する影響を考えて行動してきた」というウエル
カムアドレスに続いてスタンフォード大学教授のCarl Djerassi博士の避妊と生殖医療をテーマとしたキーノートレクチャーで幕をあけました。経口避妊薬とIDUの発明
がいかに革命的であったか、また、「ベッドの中と顕微鏡下で」ヒトの生殖が行われている現状が概観されました。先進国の少子化と人口爆発地域の人口増抑制策が促進要因となり「考えられる遺伝的組み合わせの最良のものを」と望む親が居ても当然で、それが胚診断へ直結するがどうすべきかなどという例があげられました。語彙が刺激的なものばかりで随所に(性的な)ユーモアも交えた講義でしたが、内容は人間の尊厳に直結する難問を提起していました。

 午前中はエイズとHIV、狂牛病の話題が中心で、ヨーロッパ各国がこの話題について非常にセンシティブになっていることが肌で感じられます。会期中に狂牛病の牛肉の混入事件が取りざたされたこともあります。主として生命科学的見地から事例分析が行われ、その社会的影響が議論されました。発表者から、これは科学者の独言(モノローグ)で(とあるいは民衆の独言)対話(ダイアローグ)じゃないじゃないかと自戒を込めたコメントがあり、主催者があわてて参加者のほぼ半数は科学者ではない、と訂正しました。しかしながら、専門的データを用いた学会のシンポジウムと同レベルの発表が続きましたから、すくなくても社会との対話を目指す分りやすい結語が必要と感じました。

 午後は遺伝子改変生物(GMO)とその流通に対する意識についての話題でした。特にPAPBE(public perceptions of agricultural biotechnologies in Europe)という調査に基づいた報告はGMO食品に対する消費者感情もまとめて報告されており、GMOを利用した食品は必ず計画時点から、生産、流通、消費までを細部に渡って継続的に追跡しないといけないと感じました。

 討論では基本的にGMOはシロとする意見が多く出されました。ただ、薬はOK、毎日の食べ物はNO、というのが大まかな傾向です。ある国を名指しで非難する意見も出さ
れ、EUという集合体の運営の難しさを感じました。しかし、個々の指摘・意見あるいは非難は、日本という一国の内部でも共通であると考えられますから、注意して聞いておくにこした事はありません。

 夕食後の「いかに科学の信頼を取り戻すか」というテーマでハイデルベルグの女性市長を交えてパネルディスカッションが行われました。これは狂牛病事件の顛末と論理的には甚だ合理的なGMO食品が社会からバッシングを受けている事実などが前提になっています。サイエンス誌の上級編集者のDr. Smithなどはすでに人々は科学への信頼を失っていると明言するほどです。また、米国やカナダ、オーストラリアに比してなぜトランスジェニック動物が嫌われているのかと言う疑問も提起されました。自由討論になるとまさに百論百出で、司会者がパネリストとして行動してしまいガイドもまとめもしなかったので議論は見事に発散してしまいました。ストレスを感じた参加者がほとんどで、特に発言を控えていた若い世代はその感が強かったようです。

 それでも発散した議論の中にも頻出したのが、やはり教育の重要性です。が、教育の対象と教育を施す人間がどこに属するのか、その教育の手段はどうするのかという点では一向にまとまりませんでした。また、短い自由討論では国とその歴史の壁を越えられないものなのだなとも感じました。

 個人的見解ですが、社会に対して新しいバイオ時代を理解する、少なくても受け入れる教育することは疑いもなく重要です。が、中には教育されたくない人もいるわけで、科学者の自己満足とならないように社会に対して分りやすい言葉で語れるインターフェースが必要と感じました。求めに応じて分りやすい情報が得られるようにするのが理想と感じましたが、いかがでしょうか。
 
 明日はゲノム情報の利用方法についてのセッションです。(工業技術院生命工学工業技術研究所)


 根本さんへのお便りは、miyata@nikkeibp.co.jpまで、転送いたします。


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