99年は日本にとっても、世界にとっても節目の年となるだろう。

 経済環境は危機的な状況を脱する道が見えず、このままではデフレ・スパイラルを断つことができない。政府が公的資金を湯水のように投入する従来の公共事業型投資と銀行の体質改善につながらない資本注入を繰り返して、ゾンビ状態の企業の生命維持に汲々しているだけでは未来はない。

 年末の金利急上昇は、公的資金頼りの政府の対策が既に手詰まりとなったことを明確にした。金利上昇と円高は今後わが国の企業の体力を確実に奪っていくだろう。

 強いわが国の復活のためには、伝統的な製造業の強化に加えて、バイオや情報技術などハイテクに基づいた新規産業の創造が不可欠だ。ゾンビ状態の大企業ではなく、ベンチャー企業こそその担い手である。

 80年代の米国の景気後退期に大企業がリストラし大幅に雇用を減らしたのに対し、続々と誕生したベンチャー企業が雇用の受け皿となった。また、その当時誕生した米国Amgen社などの株価時価総額が、大手製薬企業Merck社に一時迫るなど、大きく成長したことを思い出すべきである。

 今年はわが国でも具体的なベンチャー企業創造の動きが出る、出なくてはならないだろう。

 99年に注目すべきバイオ技術は、Whole Genomics(全ゲノム生物学)と薬理ゲノム学だろう。

 昨年末にはとうとう多細胞生物で初めて全ゲノムが解読された(線虫)。現在、20種の生物の全遺伝情報がシーケンスされたが、今後その数は急増する。全ゲノム生物学は全遺伝子の挙動と生命現象を関係付け、全体として遺伝子の相互作用を見る学問だ。遺伝子を変数にシステムとして生命活動を詳細に観察することが可能となる。

 実際にはある生物の全遺伝情報を1枚のチップ上に固定し、一挙にすべての遺伝子の発現パターンを測定する。これによって、ある刺激に対する細胞情報伝達プロセスや疾患が発生するプロセス、生合成経路などをダイナミックに研究することが可能となる。

 問題は微小なスポットの変化を検出する超高感度測定技術の開発と、無数のスポットの変化をパターン化し、比較するための情報処理技術である。わが国の光学産業と情報産業の出番である。

 薬理ゲノム学はわが国の製薬企業の盛衰を握る革新技術だが、これにまじめに取り組んでいるわが国の企業は皆無である。このままでは2年後に米国食品医薬品局な新薬申請の際に薬理ゲノム学のデータ添付を決めるような事態になった場合、わが国企業の新薬開発は事実上凍結される。

 そればかりか、ノンリスポンダーにも効かない薬を投薬した責任を問われる可能性がある。一種のPL訴訟である。効果が期待できない患者に副作用の危険性に曝したことは今後許されなくなるだろう。米国でタバコ訴訟に敗訴、タバコ会社が巨額な和解金を支払うという結果を見れば歴然である。

 すでに、昨年末にわが国でも脳代謝改善剤に関して、無効な医薬品を製造販売したという理由で、損害賠償訴訟が起こった。薬理ゲノム学の研究はPL訴訟を回避する意味でも、今、ただちに取り組むべき課題なのである。

 わが国の国民の薬理ゲノム学的なデータベースを一刻も早く整備しなくてはならない。

 99年もきっとこうした予想を上回る大きな変化がバイオ技術でも起こることは間違いない。可能な限り迅速に今後も技術革新をBiotechnology Japanでお伝えしたい。(宮田 満)