皆様、明けましておめでとうございます。

 1900年代最後の年を迎え、バイオテクノロジーを巡る動きはますます活発化、バイオテクノロジーの今後の将来を決める重要な一年になりそうです。わが国のバイオ産業にとって正念場となるかもしれません。

98年、米国で治療用モノクローン抗体の実用化急拡大、アンチセンスという新たな医薬品が登場しました。遺伝子情報から標的分子を同定し、その標的に対する医薬品を開発するという動きが着実に拡大しています。また、遺伝子情報をもとに患者を分類し、患者にあった医薬品の開発をしようとする動きも出ています。

遺伝子組換えで体内にある微量な蛋白を生産して医薬品として利用すること、酵素などの製品を組換えで安価に生産すること、蛋白工学などで付加価値の高い製品を開発することなど、今まで中心となってきたバイオの応用は今後も続くことでしょう。しかし、今、莫大な遺伝子情報に基づいた製品開発が新たに展開しようとしています。

 医薬品の開発概念、投与要件が変わればまず、診断薬が大きな影響を受けます。C型肝炎へのインターフェロンの投与の効果予測、効果判定でHCV核酸検査薬が急激な伸びを示したことは、記憶に新しいことです。遺伝子情報に基づいた医薬品開発は新たな遺伝子検査の開発が必ず必要になります。

 遺伝子情報に基づいた製品開発は医薬品だけにとどまりません。農業、食品、化学、環境など幅広い分野の産業を大幅に転換させる可能性があります。新たなバイオ産業が黎明の時期を迎えようとしているといってもいいでしょう。

 このような状況の中で99年に注目される課題の一つは、生命倫理とパブリック・アクセンプタンスの問題でしょう。

 遺伝子組換え食品の実用化が広がり、組換え製品が極めて身近なものとなってきています。遺伝子組換え食品の表示に関する議論が本格化していますが、その行方によっては、食品分野へのバイオ製品の展開は、大きな影響を受けることになるでしょう。まさに、パブリック・アクセプタンスが重要な鍵を握っているのです。さらに、環境分野へのバイオの応用も本格化しつつあります。微生物を使った環境浄化技術など、社会に貢献できる有望な技術が広がろうとしているのです。この技術の環境への応用にもパブリック・アクセプタンスが重要な鍵を握っています。官民あげてのパブリック・アクセプタンスの獲得に向けた活動が重要になるでしょう。

 生命倫理の問題も99年にはより注目を集めるでしょう。98年に体細胞クローン問題をきっかけとして、ようやくわが国でも生命倫理に関する検討・議論が動き始めました 。遺伝子診断、遺伝子治療も今後、ますます広がっていくのは確実でしょう。生命操作の倫理面の議論を本格的に進めるべき時期が到来しています。さらに、遺伝子情報の管理の問題も注目です。ゲノム解析、遺伝子解析が進み、ヒトの遺伝子に関する情報が凄まじい速度で蓄積されつつあります。生命保険の加入、就職の際の調査などに利用され始めるのもそれほど遠くないかもしれません。

 一方で、遺伝子情報に基づいた医薬品の開発も始まっています。きちんとした情報管理さえできれば、その患者の病気にあった医薬品を投与することもできるかもしれません。疾病へのかかりやすさが判れば、生活習慣の改善や適切な健康診断による早期治療、予防へとつなげることも可能になるでしょう。遺伝子情報をきちっと管理し、新たな差別問題を引き起こさないような枠組の構築をきちんと議論すべき時期がきているようです。
 さらに、特許など知的所有権の問題も重要度を増すことでしょう。

99年は、遺伝子情報の商業化をどう進めるべきか議論が深まる年にもなりそうです。特に医薬品分野では、遺伝子情報に基づいた医薬品開発は、画期的な新薬の開発に不可欠なことはいうまでもありません。技術面、ビジネス面での展開に注目していきます。また、実際にどう疾病関連遺伝子をみつけ、医薬品開発につなげればいいのか、莫大な遺伝子情報を医薬品開発に結びつけていくのかが問われる一年になりそうです。

 99年には、わが国でもバイオ・ベンチャーが相次いで誕生するのではないかと予想しています。政府が模索する21世紀型産業の中の一つには、バイオが挙げられています。新産業を起こすための施策も次々と行われています。さらにTLO法ができ、大学からの技術を基にした開発も進めやすくなりました。公務員の兼業規定も文部省では緩和されました。また、企業のリストラなどで、有力な知識・経験をもつ研究者が研究の場を離れるケースも出ています。資金とヒトの問題さえメドが立てば新たなバイオ・ベンチャーが起こせるチャンスが来ているようです。

 日経バイオテクは、毎日のニュースをインターネット上で提供するする日経バイオテク・オンラインに加え、99年には、2週間のトレンドを読むための日経バイオテク本誌、長文の分析レポート、企業戦略、バイオ業界の調査など将来のビジネス戦略の策定に不可欠なバイオ・インテリジェンスを紙媒体で提供、バイオのビジネスに関する総合的な情報提供をますます強化していきます。どうぞ今年もよろしくお願いいたします。

日経バイオテク編集長
横山 勇生