最初に告知をさせていただきます。

 日経バイオテクでは、12月1日に、「製薬企業におけるトランスレーショナルメディシンの課題」をテーマに、東京・品川でセミナーを開催します。トランスレーショナルメディシンを医薬品開発に活用するための製薬企業各社の取り組みと課題を議論する予定です。是非、皆様のご予定をいただければ幸いです。既にお申し込みの方には御礼を申し上げますとともに、重ねてのお知らせとなり、お詫び申し上げます。

セミナーの詳細は以下のサイトをご覧下さい。
http://nkbp.jp/1POleZW

 少し前の話になりますが、10月15日から日本人類遺伝学会の第60回大会が開催されました。60回という節目で、大会長である東京医科歯科大学難治疾患研究所分子細胞遺伝分野教授で疾患バイオリソースセンターのセンター長の稲澤譲治先生の肝煎企画の1つとして「先達は語る」というプログラムがありました。

 この企画で登壇したお一人が、大阪大学名誉教授の松原謙一先生でした。松原先生がこれまで見聞きされてきたこと、お感じになったことを聞くことができるありがたい企画でしたが、先生によると、生物を共通言語で語ることができるようになったのは、物理学者のおかげと言うことでした。ここで言う共通言語はDNAや蛋白質などといったことを指しています。

 そういえば、東大教授で、その後、理化学研究所ゲノム科学総合研究センターの所長を務められた和田昭允先生も物理学者でした。

 今、我々が少しは生物のことが理解できるようになったと思うことができるのもこうした物理学者の努力のおかげです。松原先生によれば、「物理学者が集まって将来をよく考え、議論し、研究結果は共有してきた」からこそだと言います。

 しかし、その後、遺伝子組換え技術が登場したことでコマーシャリズムが生まれたのは皆様ご存じの通りです。以前は海外の研究者にお願いをしても一言でオッケーが出たのに、それ以降は簡単にはオッケーしてもらえないことが増えてきたそうです。

 しかし、いよいよヒトゲノムを解読しようという気運が盛り上がったとき、「協力して成し遂げようという思いを多くの研究者が共有していた」と松原先生は振り返ります。日本に対しても、「ゲノム解読への参加を促す『外圧』があった。その結果、ヒトゲノム解読に日本は6%の貢献をすることができた」という裏話も聞かせていただきました。

 最後に松原先生がご指摘なさった一言は非常に興味深いものでした。曰く、「日本人のゲノムを解読して、治療法の開発や医療などに応用すべき、という『外圧』がかかることはない。自分たちで考え、どうしていくべきか提案していかなければならない」。

 海外の大手製薬企業は日本人のゲノム情報に興味を持っているでしょう。ただし、それはゲノム情報をもとに有効な薬剤を選抜し、診断薬と組み合わせ、最適な患者に最適な方法で投薬するというこれからの医薬品の開発を進める上で、日本人のデータ「も」あると、今のところ魅力的な日本市場にアクセスしやすいからという理由からでしょうか。ただし、ブリッジングで承認される薬剤も少なくありません。日本人のデータをどこまでほしがるでしょうか。だからこそ、一部の研究者は、なんとか国際共同治験に日本人を登録しようと頑張っておられると思います。手術成績が良いとか、丁寧な診療によって予後が海外に比べて相対的に良好だから、臨床試験に参加してくれるな、と言われることもあるそうですけれど。

 ゲノム解読が完了したと発表があったとき、榊佳之先生は、ヒトを理解するための基盤ができたと言われました。協力して共通言語の形成に一定のめどが付いたからこそ、あとは自由な競争で、海外から「あーせい、こーせい」と言われることはないということでしょうか。最近、ある方に、「日本は車を売って、薬と食べ物を買う国では?」という指摘を受けましたが、日本が長年培ってきた丁寧な医療とその医療の中でも有効性を示すことができる日本発の治療法を追いかけていきたいと思う次第です。

                        日経バイオテク 加藤勇治