最初に告知をさせていただきます。

 日経バイオテクでは、12月1日に、「製薬企業におけるトランスレーショナルメディシンの課題」をテーマに、東京・品川でセミナーを開催します。トランスレーショナルメディシンを医薬品開発に活用するための製薬企業各社の取り組みと課題を議論する予定です。是非、皆様のご予定をいただければ幸いです。

セミナーの詳細は以下のサイトをご覧下さい。
http://nkbp.jp/1POleZW

 最近、癌に対するウイルス療法についての取材をして非常に興味深い話題が2つありました。

 1つは、桃太郎源が開発を進めているアデノウイルスベクターと癌抑制遺伝子を用いたREIC遺伝子治療薬「Ad-SGE-REIC」です。

桃太郎源、杏林製薬による中皮腫に対する第2世代REIC遺伝子治療のフェーズI/II
試験が今月開始、米国での早期前立腺癌を対象とした試験では良好な結果
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150927/187575/

 中でも、このAd-SGE-REICは、米国ではPSA監視療法(アクティブサーベイランス)を受ける患者を対象に臨床試験が進められていることに興味を持ちました。アクティブサーベイランスを受ける患者とは、過剰治療にならないよう、現時点では病状を継続的にモニタリングし、病勢進行が認められたら積極的な治療を行うというものです。臨床試験とはいえ、こうした病状(病期)の患者に、遺伝子組換えを使ったウイルスを投与する治療が行われることに少々驚いた次第です。

 聞けば、米国の性機能温存へのニーズは高く、また20年に及ぶアデノウイルスベクターの使用経験に基づく安全性への信頼、導入する遺伝子が癌抑制遺伝子である、といった要因が、こうした非常に初期の患者を対象に試みられる背景にあるようです。これまでの医薬品の開発では、標準治療が一定程度確立しており、また新しい機序あるいは革新的な技術による医薬品ほど、治療ラインの最後の方から開発される傾向にあったと思いますが、CRPCで承認されているならともかく、まだ開発中の段階から早期患者に投与されている現状は非常に興味深いのではないでしょうか。

 もう1件は、オンコリスバイオファーマが開発を進めている腫瘍溶解ウイルスであるテロメライシンです。最近、同社はp53遺伝子を組み込んだものやコクサッキーアデノウイルス受容体を介して細胞内に侵入するものなど、次世代型のウイルス製剤をパイプラインに加えました。

オンコリス浦田社長、「テロメライシンは局所投与にこだわって開発したい」、
免疫チェックポイント阻害薬と併用しQOLと予後の改善目指す
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20151011/187887/

 聞くと、腫瘍溶解ウイルス製剤は局所投与にこだわって開発を進めていきたいというお話しでした。免疫チェックポイント阻害薬の開発が盛んになってきた今、特にそう考えるようになったということでした。

 腫瘍溶解ウイルス製剤の局所投与は、例えば、癌細胞の増殖によって狭窄が発生してしまっている部位であれば局所的な腫瘍縮小効果による狭窄改善が期待できること、肝細胞癌では癌細胞塊に対し経皮的に焼灼する治療は一般的に行われており、体表面から穿刺することは専門医にとってそれほど侵襲的だとは思われていないこと、大きな動脈を巻き込んで大きく発達してしまったようなインオペ例にも対応できること、などがあるようです。

 さらに腫瘍を溶解することで癌細胞特異的な抗原が放出されることは、免疫チェックポイント阻害薬と併用することでより高い効果が期待できるわけで、免疫チェックポイント阻害薬がたくさん開発されているからこそ局所投与、さらには抗癌剤や手術が苦手とするような症例にこだわっていこうという考え方でした。

 2社とも非常に興味深い取り組みで、長年の使用経験と最新の癌治療薬の知見がウイルス療法や遺伝子治療を大きく進めようとしていることを実感します。

 ついつい、アクティブサーベイランス患者に使えれば非常に大きな市場だけれど、有効性を示そうと思ったら試験に時間がかかりそうだ、とか、免疫疲弊を解除したとして、どれだけ癌ゲノム中の非ドライバー変異に対して反応するのか、過剰な自己免疫反応につながらないか、とか要らぬ心配してしまいますが、免疫チェックポイント阻害薬の開発が海外を中心に進む中、是非とも身近なところから免疫チェックポイント阻害薬の併用相手が創製され、プレゼンスを示して欲しいと思う今日この頃です。

                          日経バイオテク 加藤勇治