皆さんこんにちは、日経バイオテク編集部の高橋厚妃です。日経バイオテクの次号である2015年9月14日発行号の「若手研究者の肖像 第6回」を担当しました。若手研究者の肖像は、今年4月から開始された新しい連載で、若手の研究者で独創的な研究を行っていたり、研究室主宰者(PI)を務めている方の紹介を行う企画です。
今までに
第1回 横浜市立大学大学院医学系研究科 武部貴則 准教授
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150414/183891/
第2回 東京大学大学院農学生命科学研究科 宮川拓也 助教
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150521/184982/
第3回 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)未来生命科学開拓部門 堀田 秋津 特定拠点助教
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150617/185638/
第4回 名古屋大学大学院創薬科学研究科 小坂田文隆 講師
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150716/186309/
第5回 大阪大学医学部付属病院未来医療開発部 原正彦 特任研究員
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150819/186912/
を取り上げて紹介してきました。

 今回取り上げたのは、東京大学先端科学技術研究センター准教授の谷内江望(やちえ のぞむ)氏です。谷内江氏は、細胞集団の各細胞に人工的なDNA配列(DNAバーコード)を組み込んで増殖させ、次世代シーケンサーを用いて集団の中で様々な細胞の分布などを定量したり、1細胞の挙動を追跡する技術の開発などを行っています。

 若手研究者の肖像では、研究内容だけではなく、その人柄などにも焦点を当てます。ご本人をよく知っていらっしゃる方にも取材を行って、様々なエピソードを聞き出してくるわけですが、今回は紙面の都合で掲載しきれなかったエピソードをご紹介させて頂こうと思います。

 谷内江氏の出身研究室のボスである、慶應義塾大学先端生命科学研究所所長の冨田勝氏から、「彼は、毎年エイプリルフールに仕掛けるいたずらが本格的で面白い男」というコメントと共に教えて頂いたエピソードです。学生時代に谷内江氏は、冨田氏を驚かせようと、研究室の女子学生と婚約したとウソをつき、その時の様子をラボのみんなで共有するため、隠しカメラまで仕掛けていたそうです。カナダUniversity of Torontoに留学中のエイプリルフールでは、ラボの中国人の同僚に、「日本のさる高貴な人物が、今カナダで、分子生物学を研究しているというニュースを中国の新聞がすっぱ抜いた」という噂を流してもらい、「これはyachieのことではないか?」とラボ中で話題になるように仕組んだそうです。ちなみに、冨田氏へのいたずらは、事前にばれてしまい、逆に谷内江氏が冨田氏にドッキリさせられるという失敗をしてしまったそうですが。。。

 谷内江氏ご本人への取材を終えてみると、この「いたずら好き」というエピソードがしっくりくることが分かりました。限度をわきまえたいたずらは、周囲を和ませ、楽しい気分にさせてくれます。留学中には、「一流の仕事は、一人ではできない。海外で一流の仕事をしている人は、一緒に仕事をする人たちをもてなしたり、楽しませることに長けている」と感じたそうですが、本人がもともと、周囲をあっと驚かせたり、楽しい気分にさせることが好きなため、この分野の感度が高く、特にそのように感じたのではないでしょうか。カナダから帰国後、自分でラボを運営するようになり、「みんなが気持ちよく仕事をしてもらえるように」といつも心掛けているそうです。

 例えば、今年の夏に山形県鶴岡市で開催したラボの勉強合宿では、谷内江氏は、ラボに所属する学生やスタッフの家族や恋人なども一緒に連れていくことを提案しました。研究やディスカッションを行うラボメンバーと、鶴岡の観光に行く家族たちは、昼間は全く異なる時間を過ごしますが、夕食は一緒に囲むという計画を立て、最終日の夕食時には、サックス奏者を呼んで演奏をしてもらうという仕掛けも用意しました。この合宿には、慶應大の鶴岡キャンパスの他の研究室や、東大の理学系研究科の研究室にも参加してもらい、違う研究室の研究者とのコミュニケーションも活発化させたそうです。

 独創的なアイデアは、様々な人たちとのコミュニケーションから生まれてくるのはもちろんですが、そういう面白い人たちを自分の周囲に引きつけたり、一緒に仕事をしたいと思ってもらえるというのも大切だと思った次第です。どうぞ次号の「若手研究者の肖像」をお読みいただければと思います。