こんにちは。日経バイオテクで副編集長を務めています久保田です。本題に入る前に、セミナーの告知をさせていただきます。

 日経バイオテクでは、10月2日(金)、東京・秋葉原にて日経バイオテクセミナー「ゲノム編集が変える創薬―技術利用から特許まで、気を付けるべきポイントは?」を開催します。同セミナーでは、アカデミア、製薬企業、特許事務所から研究者や弁理士を招き、ゲノム編集技術の開発、遺伝子改変動物の作製、創薬スクリーニングへの利用、特許の利用などに際して、最新の成果や注意点をご講演いただく予定です。

 アカデミアか企業かに関わらず、創薬に関わっている方には、どなたにも参考になる内容になっておりますので、ぜひご参加ください。

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 さて、本題に戻ります。一般紙でも大きく報道されましたので、読者の皆様もご存じだと思いますが、厚生労働省が2015年9月2日、薬事・食品衛生審議会再生医療等製品・生物由来技術部会を開催し、JCRファーマの細胞性医薬品「テムセルHS注」とテルモの骨格筋芽細胞シート「ハートシート」の承認を了承しました。順調にいけば9月中にも、医薬品医療機器等法の下で、初の再生医療等製品が承認されることになります。

 同法では、安全性が認められ、有効性が推定される再生医療等製品を、条件期限付き承認(いわゆる早期承認)する仕組みが導入されました。今回承認が了承されたテムセルは正式承認となる予定ですが、ハートシートは条件期限付き承認で、60例を目標症例として有効性を確認し、5年以内に改めて承認申請をすることになりました。

 では、早期承認と正式承認の分岐点はどこにあるのでしょうか。言葉を変えれば、有効性が推定されるのではなく、有効性が認められるにはどのような要件を満たす必要があるのでしょうか。厚労省の判断の詳細は、今後公表される審査報告書を読む必要がありますが、部会後、報道陣向けに行われた厚労省のレクチャーで明らかになったのは、再生医療等製品の「有効性」を示すためには、「仮想の対照群」が重要だということです。

 正式承認となったテムセルは、一定の症例数(フェーズII/IIIでは25例)を対象とした治験が実施された上、海外で同じ導入元の製品が認められているという実績もあります。ただ、それだけでなく、治験で得られた治療成績が、治験の対象と同様の患者(急性移植片対宿主病を発症し、ステロイド治療で効果が得られない患者)が既存の治療(抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン、ミコフェノール酸モチル)を受けた場合の治療成績に劣らないことが示されており、それが正式承認の根拠の1つとなりました。ちなみに、既存治療を受けた場合の治療成績は、治験で実際に対照群を設定したわけではなく、海外からの文献報告に基づいた「仮想の対照群」のものでした。

 一方、早期承認となったハートシートは、治験の症例数が少なく(7例)、治験の治療成績からも「臨床的に有効である可能性を示唆する成績であったと考えられる」(厚労省)とされました。そして、有効性を示すため、早期承認後に60例を対象とした有効性評価を行うことになったわけですが、その際、併せてその対象と同様の患者(目標症例数は120例になる見通し)の臨床経過に関する情報も収集し、治療成績を比較することが課せられたのです。この有効性評価は治験には当たりませんので、まさに「仮想の対照群」を求められたことになります。

 背景には、ハートシートの適応になるような患者が、現在の医療を受けた場合の治療成績や予後について、レジストリなどがないために把握できないという事情があるようです。テルモは、ハートシートの有効性評価のために新たにレジストリを立ち上げ、仮想の対照群の情報も収集する見通し。いずれにせよ、今後、再生医療等製品、特に国内で先行開発される再生医療等製品の有効性を示すには、「仮想の対照群」になり得る実臨床における既存治療の治療成績の把握が不可欠になりそうです。

 ちなみに、国内で承認された再生医療等製品が世界でも同じように承認されるかという観点からは、こうした日本の当局の考え方が、欧米の当局に通じるかどうかというポイントも重要になるでしょう。