皆様、こんにちは。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 8月末に2016年度政府予算の概算要求が出そろいました。それによると要求総額は102兆円台で、過去最大になるようです。今年6月に2020年度までの財政健全化計画がまとめられ、その内容は政府の骨太の方針にも盛り込まれましたが、その初年度の概算要求が大きく膨れ上がったことに対して、「どこまで本気で財政再建に取り組む気があるのか」といぶかしがる声が高まっています。各省庁が2015年度の補正予算を視野に入れて要求したため概算要求額が膨らんだとの指摘もありますが、一方で財政再建が必達の課題となっている以上、要求額がすんなりと認められるわけはありません。診療報酬の引き下げなど、社会保障費削減に向けた動きはこれから本格化していくことでしょう。

 とりわけ、歳出削減の大きなターゲットになっているのが医療費の中の薬剤費。後発医薬品の使用促進をさらに進めるために、使用割合の目標値を引き上げ、患者の自己負担の見直しや、先発品と同じ規格をそろえなくていいようにするなど、様々な方策が検討されています。これらはもちろん製薬企業の経営に大きな影響を及ぼすわけですから、バイオ関係者は大いに注目すべきでしょう。

 一方で、2016年度の概算要求のうち、医療分野の研究開発予算は前年比16.5%増の2296億円でした。このうち日本医療研究開発機構(AMED)の予算は1515億円で267億円(21.4%)の増額。医薬品創出プロジェクトに41億円増の297億円をあてるということです。ただ、これらももちろん査定の対象になるわけで、最終的にどう決着するかはまだ分かりません。いずれにせよ、財政健全化計画初年度の政府予算の策定に向けて、年末にかけての各省庁と財務省との予算折衝はかなり厳しいものとなりそうです。

医療分野の概算要求、16.5%増の2296億円に
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150902/187162/

 ところで、日経バイオテク最新号の8月31日号にアカデミア創薬に関する特集記事を掲載しました。

日経バイオテク8月31日号「特集」、日本の創薬環境はどうなる?
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150831/187115/

 編集部では2週間に一度、紙の本誌を発行する度に編集会議を行い、記事の講評や今後の企画などを議論しているのですが、そこでこの記事に対して出たのは、「そもそもアカデミアが創薬に全面的に乗り出す必要があるのか」という指摘です。

 製薬企業が基礎研究から手を引いて、基礎的なシーズを外部に依存するようになっているのは確かです。そうした企業からのオープンイノベーションに対する期待に応えようと、アカデミアが実用化につながる研究に傾注していくのもよく理解できます。ただ、それがリード化合物の探索のようなかなり個別のテーマになってくると、本当に税金を使ってそこまでやる必要があるのか、疾患研究のような製薬企業1社ではできないようなことこそアカデミアの役割ではないのか、といった声が出るのも頷けます。また、アカデミアによる「民業圧迫」という側面もあるでしょう。

 最近、製薬企業の研究開発の人に言われたのは、「かつては臨床の医師と一緒に研究して薬の種を探すのは当たり前だったが、直接薬の開発につながらない研究は無駄だと切り捨てられ、開発部門も効率を求めるために海外で早期の臨床試験を行うようになって、臨床の研究者との関係が希薄になってしまった。昨今、製薬企業がメディカルアフェアーズに力を入れているのはその反省もある」ということです。製薬企業などによるオープンイノベーションの取り組みはどんどん広がりを見せていますが、その一方で、研究開発が外部に依存し過ぎていると考える人も増えているように思います。

 ただもちろん、疾患の理解を深める研究など、製薬企業1社にはできない、アカデミアとの連携に頼らなければならない分野はまだまだたくさんあります。医薬品の研究開発における産官学の役割分担はどうあるべきか、限りある政府予算で賄うべきことは何なのかは、オープンイノベーションの推進の一方で、常に議論していくべきテーマです。政府の債務残高は1000兆円にも上るわけですから、アカデミアの無秩序な膨張が許される状況でないのは確かでしょう。

                      日経バイオテク編集長 橋本宗明