世界で広がるゲノム編集による育種とルール作り【日経バイオテクONLINE Vol.2297】

(2015.08.07 18:00)
久保田文

 3週間に1度、メルマガを担当しています副編集長の久保田です。連日暑い日が続いていますが、いかがお過ごしですか。

 まずはゲノム編集をテーマとする新しいセミナーのご案内です。日経バイオテクでは10月2日(金)の午後、東京・秋葉原でゲノム編集の創薬応用をテーマとしたセミナーを開催する予定です。同セミナーでは、アカデミアや製薬企業の研究者の方から、ゲノム創薬をスクリーニングや遺伝子改変動物の作製にどのように生かしているかなどをご講演いただきます。

 先週土曜日、第7回遺伝子組み換え実験安全研修会に参加しました。全国大学等遺伝子研究支援施設連絡協議会が主催するこの研修会、今回は「ゲノム編集技術の進展と課題」と題して、ゲノム編集を用いてマウスの遺伝子改変を手掛けている大阪大学微生物病研究所附属感染動物実験施設の伊川正人教授や、ゲノム編集による植物育種の規制のあり方について北海道大学安全衛生本部ライフサイエンス研究安全担当の石井哲也教授が講演されました。

 その後のパネルディスカッションも含め、研修会ではゲノム編集を用いた植物の改良が、世界ですごい勢いで進んでおり、それに合わせて各国がルール作りを急いでいるという状況がよくよく理解できました。特に、幅広い生物種に利用でき、多重変異を容易に作出できるCRISPR/Cas9のパワーはすさまじいものがあります。

 最も驚いたのは、六倍体全てに非相同末端結合による挿入欠失変異を入れ、うどんこ病に罹らないようにした異質六倍体のコムギがあるという話。外来遺伝子を入れるわけでもなく、editingだけでここまで可能にするゲノム編集はすごい。石井教授によれば、香りのいい米ができるイネや、芳香成分を増やしたイネが作出されるなど、消費者目線でゲノム編集を活用する動きも出ているようです。

 現状、ゲノム編集については、ZFN-1(非相同末端結合経由の挿入欠失変異)、ZFN-2(点変異や短配列の導入)、ZFN-3(外来遺伝子の導入)と分類した上で、それぞれの規制のあり方を考えるという動きが世界的に広がっているようですが、それに従うと、先ほどのコムギはZFN-1相当で、もちろん遺伝子組換えには当たらないと理解されます。ただ、石井教授は「非相同末端結合であっても、本来有していない機能を獲得しているという点で、規制の対象とする考え方もある」と指摘していました。

 米国、欧州はもちろん、ニュージーランドやアルゼンチンなど世界の農業大国は、既にゲノム編集に関して規制作りを進めています。「規制」と聞くと、いろいろできなくなるように感じがちですが、各国の動きには「ゲノム編集を育種に活用できるようにルールを作る」という本音も隠されているようです。

 翻って日本。研究者からは、「規制ができると、遺伝子組換えの時のように事実上、何もできなくなるのでは」という不安がひしひしと伝わってきましたが、一方で、研究を前に進めるためにも、規制(ルール)作りは重要、という考え方もできます。大切なのは、ただ規制を作るのではなく、何のために規制を作るのか。日本で規制の議論が本格化するときには、ぜひその点を考慮していただきたいと感じました。

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