2カ月ぶりにGreenInnovationメールでお目にかかります、日経バイオテク編集の河田孝雄です。先月(2015年4月)の末はゴールデンウィーク中(あるいは隣接)していたため、お休みをいただきました。

 今回は、ジェット燃料をはじめとする液体燃料の供給源として期待されている藻類の培養技術開発の日本における進捗について、報告します。

 昨日(5月28日)は、福岡県の北九州市の若松地区で、海洋珪藻を海水で屋外培養している電源開発の取り組みを取材しました。

[2015-5-29]
電源開発、北九州で海洋性珪藻を1年間安定に屋外培養、直径10mの培養開始
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150529/185228/

 その1週間前の5月21日(木)には、鹿児島県の鹿児島市のIHIの所有地で、淡水性緑藻のボツリコカッカスを淡水で屋外培養しているIHIなどの取り組みが、報道陣に公開されまして、取材しました(鹿児島市に隣接した自治体は南九州市という名前になってました)。

[2015-5-22]
IHIと神戸大、ちとせ研、油50%超の藻を1500m 2 で屋外培養、
「組換えは10年後に備えた取り組み」と榎本教授
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150522/185018/

 いずれも屋外で培養しているので、まずは、特別な雑菌対策をしなくてもきちんと増殖してくれる藻類の選抜、がとても重要です。豪雨や台風などの天候の変化への対応・対策も、大変です。

 ガソリンや軽油、重油などの原油由来の液体燃料は、現在、幅広く利用されています。昔の太陽エネルギーを固定化した炭水化物を含む原油は、だんだんと貴重なものになりつつあります。本来は、燃料としてではなく、石油化学プラントで生産されるような有用物質の生産の原料として利用すべきなのですが、現在は、ガソリンをはじめとする液体燃料として大量に利用されています。

 電気自動車の普及が進んでいるように、代替エネルギー源の活用により、原油から生産する液体燃料の利用は減らしていく取り組みが進んでいます。

 その中で、航空機などを飛ばすためのジェット燃料は、エネルギー密度が高いエネルギー源が必要であり、液体燃料の利用が最後まで残る用途の代表といえるようです。現在の蓄電技術レベルでは、蓄電池が重くなってしまうため、電力エネルギーは航空機には使いにくいのです。

 微細藻類の中には、太陽光のエネルギーを利用して液体燃料を生産できる効率が高い株が見いだされていて、注目されています。

 ここで注意しなければならないのは、エネルギー収支比(EPR)です。

 液体燃料を生産するために投入する(消費する)エネルギー量が、生産できる液体燃料のエネルギー量よりも多ければ、エネルギーを生産していることにならないからです。EPRは、生産したエネルギー量が分子で、投入したエネルギー量が分母の比率です。EPRが1を超えれば、エネルギー生産として意味がある。“プラス”という意味合いになります。

 昨日北九州市で取材した電源開発の取り組みでは、藻類の培養に必要な電力消費量を、クロレラやスピルリナの商業生産に利用されているレースウェイ型培養装置に比べて10分の1未満に抑制できるという、「低出力浮遊式撹拌円形培養装置」を採用するなど、投入エネルギーを切り詰める取り組みを徹底的に進めていました。

 2014年度1年間にわたり、屋外で安定した藻体の生産に成功したとのこと、今後のさらなる工夫で、EPRが1.75というエネルギーがプラスの生産が可能になると試算しています。

 一方、鹿児島のIHIの設備では、1500平米という大きな設備で3月末から5月上旬にかけて順調に藻体を生産できたことが公開されました。企業秘密なので仕方ないのですが、IHIなどの取り組みについては、EPRや、EPRの算出に必要な基礎データなどは、ほとんど公開されていません。

 いずれにしましても、藻類の培養による液体燃料の生産性を高めてEPRをプラスにするためには、用いる藻類の生産性を高める育種が、重要です。

 IHIのグループでは、ちとせ研究所(2015年4月にネオ・モルガン研究所から社名を変更)が保有する“不均衡変異導入法”が、藻類の育種に威力を発揮しているようです。

 一方、電源開発のグループでは、まずは天然界から性能の優れた藻類を収集して くるところの工夫により、高性能の株を取得しています。

 また、遺伝子組換え技術を用いた生産性向上の成果も、発表しています。

[2014-9-11]
農工大と電源開発、GK遺伝子のノックインで微細藻類の油生産性1.6倍、
松永学長の代理で武藤氏が講演
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20140911/178939/

 現在の日本などの制度では、遺伝子組換え技術を用いて育種した藻類の屋外培養にはかなりの困難が伴います。日本にとってエネルギー資源問題は、とても重要と思います。広大な排他的経済海域を持つ日本は、太陽エネルギーを藻類で液体燃料に変換するのに適した場所にも、比較的恵まれているのでは、という見方もできます。カルタヘナ法の運用の見直しは、エネルギーの国家戦略上でも、必須と思われますが、いかがでしょうか。

 カルタヘナ法に関連する最近の日経バイオテクの記事やメールのリストを以下に掲載します。ご参考にしていただければと思います。

[2015-5-18]
日経バイオテク5月18日号「特集」、精密ゲノム編集新世紀
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150518/184842/

[2015-4-27]
日経バイオテク4月27日号「特集」、正念場を迎えるウイルス療法
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150427/184186/

[2015-1-30]
【機能性食品 Vol.173】55年前に「腸内細菌と疾病」の先見性、
真珠湾攻撃とインパール作戦
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150131/181992/

[2014-11-11]
日経バイオテク11月10日号「特集」、「カルタヘナ法」カタルシス
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20141111/180333/

 ご意見、ご批判は以下のフォームよりお願いします。
https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/