こんにちは。隔週でメルマガを担当しています副編集長の久保田です。実は今、米国ニューオリンズで開催されている米国遺伝子細胞治療学会(American Society of Gene & Cell Therapy:ASGCT)に取材に来ています。

 停滞期を経て、ベクターの改良などが進んだことで、遺伝子治療が近い将来、続々と花開くであろう、との見方に異論をはさむ方は少ないのではないでしょうか。昨今、世界の大手製薬企業が遺伝子治療に続々参入しているところを見ても、その流れは加速しているように思います。加えて、同学会が途中から学会名に「細胞」を加えたように、従来型の遺伝子治療だけでなく、CAR-T療法やTCR療法のような、遺伝子治療と細胞治療を組み合わせた治療法の実現も間近に来ています。

 学会初日となった5月13日は、まさにそのCAR-T療法の開発を手掛けるスイスNovartis社がランチョンセミナーを開催し、500人超の観衆が集まりました。トップバッターで講演した米ペンシルベニア大学のBruce Levine氏は、「1、2年前、この学会でT細胞について講演した時には、20人ぐらいしか聴衆が集まらなかった。今日はランチのお蔭ですね」と冗談を飛ばしていましたが、ランチもともかく、CAR-T療法に対する関心の高さも垣間見られたセミナーでした。

 ランチョンでは、同氏に加え、CAR-T療法に用いるレンチウイルスベクターを製造する英OxfordBiomedica社のJames Miskin CTO、Novartis社の細胞遺伝子治療ユニットの薬事担当部長を務めるKeith Wonnacott氏が登壇。CAR-T療法の製造に関して、大学の一研究室から世界の患者の病床に届けるための苦労について語りました。

 その中で、Wonnacott氏が強調していたのは、グローバル企業であるNovartis社として、CAR-T療法という1つの遺伝子細胞製品を、世界各国の規制に通す難しさです。同氏は「世界では、2カ国以上で承認された遺伝子細胞製品は1つしかない」(おそらく『Provenge』のこと)と指摘。「各国のガイドラインや製剤基準などの規制について、内容がまったく同じではない上、不確定要素も少なくない現状では、製品についての科学的な理解を深めていくしか道はない」と話していました。

 同社は現在、CAR-T療法の科学的な理解を深めるべく、患者からの細胞の採取から細胞加工に用いる機器や薬剤、細胞加工の手法や製品特性の把握、細胞加工の際の変動要因などを「正しく」コントロールするための戦略を練っているところだとのこと。文字にすれば、ある意味当たり前のことではあるのですが、その当たり前から正面突破しようとする同氏の姿勢に、CAR-T療法へのNovartis社の本気度を垣間見た気がしました。

 ちなみに同氏は講演で、日本において再生医療や遺伝子治療の早期承認を可能にする医薬品医療機器等法ができたことに触れ、「仮に日本で認められても、それが他国で通用するかは別。ハーモナイゼーションの考えが欠けているので、グローバル戦略が描きにくい規制だ」とコメントしたことも付け加えておきます。