こんにちは。隔週でこのメールマガジンを担当している日経バイオテク副編集長の河野修己です。

 本誌が企画した単行本、「世界最高のバイオテク企業」(原題:Science Lessons)の発行が4月27日に決まりました。この本の著者は、アムジェンのCEOだったゴードン・バインダー氏です。バインダー氏はアムジェンの創業からまだ2年しか経っていない1982年にCFOとして入社。88年から2000年には2代目CEOとしてアムジェンを率い、売り上げゼロだった同社が大手バイオテク企業として発展する過程に寄与しています。

 この本の中では、財政危機に瀕していたアムジェンがキリンビールと提携する経緯が詳しく書かれています。アムジェンがエリスロポエチンの遺伝子クローニングに成功したニュースを聞いたキリンのある社員がアムジェンに電話したのがこの提携のきっかけなのですが、この社員とは現在、アジア細胞治療学会の理事長を務めている下坂皓洋氏です。本の冒頭に提携調印式の様子を撮影した写真を掲載しているのですが、端の方に若き日の下坂氏が写り込んでいます。ちなみに、この本の訳者である山崎勝永氏と下坂氏は、偶然にも東大農学部のクラスメートだそうです。

 「世界最高のバイオテク企業」は現在、オンライン書店の日経BP書店で予約受付中です。
http://ec.nikkeibp.co.jp/item/books/239780.html

 さて、本日、日経バイオテクオンラインに以下の記事を掲載しました。

武田薬品の新規潰瘍治療薬「タケキャブ」、HTSで56万化合物からヒット
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150410/183822/

 この記事は先月、開催された日本薬学会の講演を基に書いています。タケキャブとは2月に発売された潰瘍や逆流性食道炎の治療薬で、いわゆるファーストインクラスの製品です。この領域の治療薬はプロトンポンプインヒビター(PPI)が第1選択薬になっています。アストラゼネカのオメプラール、エーザイのパリエットなどPPIは大型薬が多く、武田もタケプロンを持っています。タケプロンの2014年度の予想売り上げは540億円です。

 これまで私は、この領域の薬物療法に対する満足度はかなり高く、それ故に同じ作用機序の製品がいくつも存在していると理解していたのですが、講演を聞くとその理解は間違っていたようです。既存のPPIには幾つかのアンメットニーズが存在し、それを解決するため挑戦したのが武田だったのです。

 タケキャブ作用機序はカリウムイオン競合型のプロトンポンプ阻害(P-CAB)です。他社もP-CABの実用化に取り組みましたが、有効性不足や毒性で果たせませんでした。武田がヒット化合物を探り当てたのが2003年。発売まで干支が1回りするくらいの時間がかかっていることから、承認取得までにかなりの障害を乗り越えたであろうことが容易に想像できます。

 それにしても薬物療法に対するアンメットニーズはどんな優秀な薬にもあるようです。講演した武田の西田氏は、「PPIの欠点を改善できた」と自信ありげでした。武田がP-CABの実用化に成功したことで、今後、me-too薬の開発競争が始まることが予想されます。PPIの天下だったこの領域に、地殻変動が起こるかもしれません。