米国のメイヨークリニックの癌専門医が、米国では何でこんなに抗癌剤が高いのかという趣旨の論文を発表しています。高額な抗癌剤が米国の医療システムをダメにしているとし、その対応策を挙げています。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150406/183741/

 要約すると、抗癌剤を1年間使用した場合の費用は平均10万ドルを越え、自己負担は20%から30%なので、患者は年間に2万ドルから3万ドルを支払ったことになる。一方で平均世帯所得はおよそ5万2000ドルであるから、癌患者が家庭内に1人いれば、所得の約半分が失われることになる。米国人は同じ癌治療薬に対して、他国の1.5倍から2倍も支払っている。これに対して製薬会社は、新薬の研究開発費用が高額だから薬剤価格が高くなるが、価格相応の利益を患者に与えており、市場原理が価格設定を適切なレベルにしていると言う。

 著者らは、メディケアにおける薬価の引き下げを政府が交渉することを妨げている法律を改正し、また米食品医薬品局(FDA)などに薬剤が患者にもたらす利益に基づいて目安となる価格を勧告する権限を与えるなど、市場原理を制限すれば状況は改善するのではないかとしています。

 その“適切な価格”が公的に設定されている日本では、4月3日に国立がん研究センターが、「患者申出療養の対象になると予想される海外承認済み、国内未承認の抗がん剤の実態を集計」と題したプレスリリースを出しました。こちらは混合診療という市場原理への反発でしょうか。
http://www.ncc.go.jp/jp/information/press_release_20150403.html

 2016年度に導入予定の保険外併用療養費制度「患者申出療養(仮称)」の対象になると予想される抗癌剤は2015年1月末時点で42剤であり、それらの大半は1カ月当たり100万円を越える薬剤費が必要となり、高額な薬剤費を負担できる裕福な患者しか制度の恩恵を受けられない可能性が懸念されるというものです。患者申出療養とは、患者が希望すれば国内未承認の薬剤を迅速な審査で混合診療として認めるという制度です。

 ここで、適切な薬剤費の負担という点ですぐに思いつくのは、英国の国民保健サービス(National Health Service:NHS)のことでしょう。国が指定した医療技術や医薬品等について技術評価を行い、使用を推奨するかどうかのガイダンスを出すというやり方です。最近では腎癌でアキシチニブが推奨され、前立腺癌でProvengeが、多発性骨髄腫でポマリドミドが非推奨とされました。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150311/183120/
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150312/183132/
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150330/183557/

 こちらはこちらで、NICEが非推奨と結論した医薬品に患者がアクセスできないという問題が指摘されています。患者の自己負担や民間保険の利用などで使用できないことはないのですが、実際にはNHSで使用できない医薬品はあまり処方されないようです。NICEではこれに対して、一定の条件を付けた上で推奨するという方法を取り入れているのですが、例えば多発性骨髄腫へのボルテゾミブなど、患者が完全寛解または部分寛解に至らない場合にはメーカーがNHSに対してその費用を払い戻すという条件など、これぞ出来高払いでしょうか。

 日本でも中医協の中に費用対効果評価専門部会が設置され、現在、非公開で検討が行われています。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000080999.html

 11日から開催される日本医学会総会のセッション「医療技術の評価(ヘルステクノロジーアセスメント)と医療資源の配分」では、その一端が垣間見られるのでしょうか。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/special/isoukai2015/topics/201411/539155.html

                       日経バイオテク編集長 関本克宏

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