こんにちは。隔週でこのメールマガジンを担当している日経バイオテク副編集長の河野修己です。

 3月13日はバイオ分野の株式市場にとって厄災の日となりました。原因はスリー・ディー・マトリックス(3Dマトリックス)です。同社はこの日、局所止血材TDM-621の国内承認申請の取り下げ、追加的治験の実施、さらには2015年4月期の業績下方修正も発表しました。

3Dマトリックスが止血材の申請を取り下げ、予想売上高100億円減、
バイオ業界で過去最大級の下方修正
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150313/183172/

 バイオベンチャーで下方修正はそう珍しくありませんが、今回の下方修正は特筆すべき規模でした。当初の予想業績は売上高104億1800万円、営業利益44億8300万円でした。しかし、TDM-621の国内承認によるマイルストーンやロイヤルティーが消滅したため、売上高は5100万円で、営業損失19億8400万円に引き下げたのです。売上高の修正幅は実に100億円以上、バイオベンチャーがこれだけの額の下方修正を行ったのは記憶にありません。

 当然でしょうが、同社株には売りが殺到しました。発表前と発表後では、株価は約4割下がっています。ヤフー掲示板を見ると、怨嗟の声が並んでいます。ところが、ある証券会社のアナリストに話を聞くと、ちょっと様子が違うのです。このアナリストは「苦情は2件だけ。底値はどれくらいかという質問もある」と話します。

 つまり、3Dマトリックスの大幅下方修正は、業界関係者にとっては織り込み済みだったということです。実際、バイオに詳しいアナリストは、ずいぶん前に3Dマトリックスの予想業績を引き下げており、それを目にしていた投資家はさっさと売却済み。下がりきるのを待って買おうとしている投資家もいるということです。割を食ったのは、業界事情にそれほど通じていない個人投資家だったのでしょう。

 TDM-621の国内申請は2011年5月。申請から1年以上が経過した頃から、決算説明会で「PMDAとの協議はどうなっているのか。追加的治験の実施を求められているのではないか」という質問が必ず出るようになりました。それに対する高村健太郎社長の解答を時系列で見てみましょう。

2013年6月 「医薬品医療機器総合機構(PMDA)とのやりとりは問題なく進んでいる。追加データを求められているわけではない。承認は近いという感触を持っている」

2013年12月 「申請して約1年後に審査の責任者が交代し、最初から説明しなければならない事態があった。また、自己組織化ペプチドを有効成分とする製品はこれが世界で初めてであり、慎重になっているのではないか。追加のデータや臨床試験を要求されているわけではなく、承認されない理由は無い」

2014年6月 「この席で回答するのは難しいが、日本で開発したものを日本で販売するために何が近道かを考えている。国内での臨床試験は97症例で、十分なデータはそろっている。現在もPMDAとの協議を続けている」

2014年12月 「安全性について重篤な不具合などは報告されていない。しかし、有効性についてPMDAと協議しており、症例の選び方や評価方法などについて議論している。現在、追加臨床試験を実施することも検討している」

 こうして見ると、歯切れが悪くなったのは2014年6月であることが分かります。さらに12月にはとうとう追加的治験の実施に言及せざるを得なくなりました。大幅な下方修正の可能性がささやかれ始めたのも、6月以降だったでしょうか。

 今回の下方修正は、バイオ株市場にまだまだ大きな情報の非対称性があることを浮き彫りにしました。