初めてメールを出します、日経バイオテク編集の高橋です。先週の3日間は、横浜で開催された再生医療学会総会に朝から晩までいました。読者の皆さんの中にも参加された方が多いのではないでしょうか。同総会の会長を務めた慶應義塾大学医学部の岡野栄之教授は、「今回の総会は、『究極の再生医療』と題して開催し、基礎研究から臨床研究、規制、産業など様々なトピックを集めた。参加者が3000人を超える盛況ぶりだ」と説明していました。ここ2年ほど、同総会に参加していますが、その時と比較して最も新鮮に感じたのは医薬品医療機器総合機構(PMDA)の方によるシンポジウムや経済産業省の方によるランチョンセミナーなどが開催されていたことでした。もちろん、2014年に新法が施行された影響が非常に大きいわけですが、今まさに学術を産業にさせるプロセスが進行していることを、身を持って感じました。

 さて、今回私が注目していたテーマは、再生医療の安全性や細胞の品質管理についてです。PMDAのシンポジウムでは、再生医療の審査に関する対面助言の際によく受けるという質問が紹介されました。「条件および期限付承認の基準は何ですか」「どんなデザインの治験で、何例の臨床成績があれば条件付き承認が取得できますか」などです。しかし、皆さんにも想像がつくと思われますが、これらの問に対する明確な答えはありません。その結果、「承認取得に向けた試験のデザインについては、開発者から製品の特徴などを考慮した提案を待つ」というPMDAのスタンスになるわけです。

 なんとなく分かったような分からないようなと思いながら、先端医療振興財団の川真田伸氏の講演を聞いていると、なるほどと思うことがありました。川真田氏は2014年9月にヒトへの移植が行われたiPS細胞由来網膜色素上皮(RPE)細胞の前臨床試験を行った方です。講演では、自身が行った試験内容とその妥当性を説明されました。それに加えて、ヒトへの外挿が議論できる評価系を構築するためには、試験結果の妥当性を示す種々の結果を積み上げて論理的に説明できるようにする必要性を改めて強調し、1つのケースを紹介しました。

 網膜ではiPS細胞やES細胞のアポトーシスを誘導するPEDF(Pigment Epithelium Derived Factor)が分泌されることが明らかとなり、ヌードラットの網膜下には10の4乗個オーダーのiPS細胞を移植しなければ、移植したラットの半数に奇形腫ができないことが分かりました。ラットに移植するRPE細胞の個数と奇形腫を形成するiPS細胞の個数の関係を明らかにした上で、造腫瘍性試験のデザインを構築しなければ、たとえ腫瘍が形成されないという結果が出ても、偽陰性である可能性があります。川真田氏は、「過少評価するリスクを避けるリスクアセスメントを十分に行った上で、統計学の手法を多用して試験のデザインを構築するべきだ」と話します。その上で、ヒト移植細胞による腫瘍形成能が最も高い免疫不全マウスを使い、マウスの半数が腫瘍を形成する個数を算定するなど、容認できるリスクを設定してその枠の中で試験をデザインする必要があるという主張です。

 この講演を聞いて、開発品それぞれの特性と疾患に合わせたケースバイケースの試験デザインが必要であることの意味と、それを構築する難解さを改めて感じました。それゆえにPMDAは事前相談を促しているのか、と合点。ただし、何でも相談すれば答えが提示されるものではありません。結果の妥当性が示せる実験系を組み立てる必要があります。今、講演の記事を書いているところです。