調査会社の英Dealogic社によると、製薬企業が2014年に企業買収に費やした額は2641億ドル(日本円で約32兆円)、この金額は2013年の約2倍に達しているそうだ。最高額は11月17日に発表された後発薬大手の米Actavis社による米Allergan社の買収で、660億ドル(7兆6600億円)だった。ちなみにこの買収は2010年の米Pfizer社の米Wyeth社の買収の680億ドルに次ぐビックディールでもある。

 また、2014年は、タックス・インバージョン(税率の低い国への本拠地移転)を目的とした買収計画が話題になった年でもあった。製薬業界では、米AbbVie社による英Shire社の買収(540億ドル)、米Pfizer社による英AstraZeneca社の買収(1200億ドル)などだ。しかし、Obama政権が、優良企業の米国からの転出を阻止するために新しい規制を設けたため、実行されずに下火となってしまった。

 2015年における企業買収はどのような動向を見せるのであろうか。2015年も引き続き、企業買収が積極的に実施される年と見ている。主力製品の特許期間が満了する企業は複数あるし、パイプラインを補充しなければならない企業も多いからだ。

 買収を狙う国内企業の筆頭にアステラス製薬を挙げる。同社は泌尿器領域での抗癌剤開発に成功した。しかしそれ以外の抗癌剤候補の開発中止が続いた。開発後期の品目の充実を図るために企業買収に動く可能性は高いと見ている。無借金経営であり、余力は十分ある。また、多額の有利子負債を抱える武田薬品であるが、更なる買収に動く可能性もある。将来を担うとされていたファシグリファムとTAK-700を失い、グローバル自社品の確保が急務となっているからだ。個別に注目する企業としては大塚ホールディングスと日本新薬を挙げた。

大塚ホールディングス ブレクスピプラゾールが米国承認の年に
 「エビリファイ」(アリピプラゾール)は2014年3月期に5757億円を売り上げた。2014年12月期も増収が計画されている。しかし、最大の市場である米国の特許期間は2015年4月で失効する見込みだ。失効すれば5000億円もの売り上げが2年間で無くなる可能性も否定できない。もちろん、同社はエビリファイの売り上げ減少に対策を講じてきた。1つはアリピプラゾールの徐放性注射剤の「エビリファイメンテナ」である。開発が順調に進み、米国では2013年3月に発売となった。統合失調症治療薬の徐放性注射剤の医療ニーズは高く、エビリファイメンテナは500億円から1000億円の市場性が見込まれる。

 もう1つがポスト・エビリファイの位置づけにあるブレクスピプラゾール(OPC-34712)だ。統合失調症と大うつ病補助療法の適応で米食品医薬品局(FDA)に2014年7月に申請し、9月に受理された。審査が順調に進めば、2015年5月に結果が判明することになる。その製品コンセプトは、エビリファイを超える使いやすさ、エビリファイを超える安全性、エビリファイを超える適応症数である。少なくともエビリファイの適応症に加え、行動障害と不安障害の2つの新しいカテゴリーでの適応症を取得する考えだ。申請した2つに適応症に加えアルツハイマー型認知症に伴うアジテーション、心的外傷後ストレス障害のフェーズIIIを実施している。これらの適応症も取得できれば3000億円超の大型製品に成長すると見られている。

 2011年11月には、エビリファイメンテナとブレクスピプラゾールの権利をデンマークLundbeck社に与えた。その対価は、マイルストーン契約料などを含み18億ドルの大きな契約となったことからも2品目の潜在性の高さが伺える。同社では2014年8月26日に公表した第2次中期経営計画(2014年から2018年まで)では、2016年12月期の売上高は1兆1900億円に落ち込むものの、2018年12月期には2014年3月期の業績に並ぶ1兆4400億円まで回復するとしている。もちろん、ブレクスピプラゾールの承認無しでこの中計を達成することはできないことは明白な事実だ。

日本新薬 期待のセレキシパグの欧米での承認が判断される
 2014年8月27日に2015年3月期を起点とする第5次5カ年中期経営計画を公表した。定量的目標として、中計最終年度の2019年3月期の売上高は1100億円(年平均成長率は8%)、営業利益は180億円(同17%)、当期純利益120億円(同16%)を掲げた。2015年3月期の予想は、売上高810億円、営業利益85億円、当期純利益60億円(同4.3%増)の計画であるからかなり高い目標である。

 強気な計画の背景にあるのは、新製品群と自社創製品の承認だ。前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬「ザルティア」(タダラフィル)を2014年4月に発売した。ザルティアはホスホジエステラーゼ(PDE)-5阻害薬で、排尿障害改善薬としては新しい作用機序を有している。アクテリオンファーマシューティカルズジャパンと共同開発を実施している肺動脈性肺高血圧症治療薬候補のマシテンタン(ACT-064992)については5月に申請を行った。持続性鎮痛薬の塩酸トラマドール(NS-24)も6月に申請した。同候補は、カナダPaladin Labs社の放出制御技術「Contramid」を応用しており1日1回型の製剤となっている。いずれも導入品であるが、既存薬には無い特徴を有しており、売り上げに貢献すると見られている。

 中計で掲げた高い利益成長を後押しするのが、セレキシパグ(NS-304)のロイヤリティー収入である。セレキシパグは日本新薬が創製したプロスタグランジンI2(PGI2)受容体作動薬。プロドラッグ型の経口剤で、活性代謝物の血中濃度が長時間持続する。スイスActelion Pharmaceuticals社と08年4月にライセンス契約を締結した。セレキシパグの動脈性肺高血圧症(PAH)を対象とするフェーズIIIのGRIPHON試験は、欧米アジアなどの182施設におけるプラセボ対照二重盲検試験(n=1156)。セレキシパグの1日2回の投与群は、プラセボ群に対して病態悪化/死亡のイベント発生リスクを39%抑制、高い有用性を示した(p<0.0001)。Actelion社は2014年12月2日に欧州医薬品庁(EMA)に対し中央審査方式による販売承認を、同月24日にはFDAに新薬承認申請した。欧州にてオーファン指定されていることから、欧米では2015年中に審査の結果が判明することになる。

 PAHは肺動脈における異常な血圧上昇を特徴としており、慢性で致死的な疾病。PAH 治療薬の2013年の世界市場は40億ドルと推定されている。Actelion社のエンドセリン受容体拮抗薬「トラクリア」(ボセンタン)がトップ製品。2013年には15億3200万スイスフランを売り上げている。重篤なPAHではトラクリアとセレキシパグとの併用の可能性も考えられるため、セレキシパグの大型製品への成長も期待されるところである。