ゲノム編集技術の開発と応用は新しいステージへ

 2013年のCRISPR/Cas9システムの開発によって、ゲノム編集は全ての研究者の技術となった。さらに昨年、CRISPR/Cas9を基盤としたゲノムワイドな遺伝子の発現制御技術やRNAターゲティング技術が次々と開発され、ゲノム編集研究は新しい時代に突入している。2015年は、ヌクレアーゼ活性を無くしたCas9(dCas9)を利用した新しい技術開発、合成生物学での利用や遺伝子治療に向けた研究など、さらに多くの成果が期待される。

 dCas9を利用した新しい技術として最も期待されているのは、エピゲノム編集技術であろう。エピゲノム編集技術としては、TALEタンパク質とDNAやヒストンの修飾酵素を連結した人工酵素を使った方法が2013年に報告されているものの、dCas9を利用した簡便な方法はこれまでない。ゲノムワイドにクロマチンの修飾レベルをコントロールする技術は、様々な疾患や“がん”に見られるエピゲノム異常の修復技術につながる可能性が高く、今年前半にも複数のグループから成功例が報告されると予想している。

 早急に開発が求められるゲノム編集技術の一つとしては、簡便かつ高効率な一塩基改変技術があげられる。疾患の原因となるSNPsを同定するためには、iPS細胞や様々な細胞株において同時に複数箇所のSNPを導入した細胞をクローン化する技術が必要であるが、既存の方法は煩雑で複数箇所の改変は困難である。また、個体レベルで実績のあるssODNを用いた一塩基改変法も、培養細胞では効率が低く現実的な方法とは言えない。このような精緻なゲノム編集技術の開発と知的財産の確保を日本が積極的に進め、ゲノム編集研究分野で世界にアピールしていくことが重要であろう。
 
 遺伝子治療法の開発を目的としたゲノム編集研究にも注目が必要である。in vivoでの遺伝子修復研究やゲノム編集ツールのデリバリーに関する研究が昨年複数報告され、治療薬としてのゲノム編集ツールの開発は、米国を中心に今年も勢力的に進められていくものと予想される。

 2015年も、世界中でゲノム編集の熾烈な開発競争が繰り広げられるだろう。我が国の研究実績も徐々に蓄積されつつあるが、未だMITやハーバード大など世界トップレベルの開発拠点には太刀打ちできない状況が続いており、日本の総力をあげた研究開発が強く望まれる。基礎分野では国産のゲノム編集ツール開発や様々な生物でのゲノム編集技術の適用、応用分野では農水畜産物の品種改良、疾患モデル細胞・動物の作製の効率化、デリバリー研究など、推進が必要な研究を挙げればきりがないが、すべての研究においてスピードをさらに上げていかないと競争に勝てないことを意識して取り組む必要がある。