新春展望、冨田房男=日本バイオテクノロジー情報センター代表

(2015.01.01 00:00)

2015年こそ北海道で組換え作物が少なくとも試験栽培へ

 2014年は科学の分野でみると悲喜こもごもだったと言えるだろう。喜の方は、もちろんノーベル物理学賞の受賞である。青色LEDの発明は、正に素晴らしいことで心からお祝い申し上げるとともに我が国の科学者の素晴らしさを噛みしめている。しかし、文化勲章の方が後になっているのは気になるところである。これまでにもあったことではあるが、なかなか理解に苦しむところである。悲の方は、SATP細胞のことである。これには全く驚き以外のなにもない。理化学研究所の力量が疑われているのは、残念なことである。

 これらに比べると遺伝子組換え作物・食品の正しい理解を求めるということはマイナーことかもしれないが、私にとっては極めて残念な年であった。その理由の第1は、未だに正しい理解が進まないことである。

 遺伝子組換え作物の商業栽培面積は、1996年当初の170万ヘクタールから2013年にはその100倍以上の1億7500万ヘクタールに達した。しかもこのところ2年続けて、発展途上国(小規模農業生産者)の栽培面積が、発展途上国のそれを越えたことは大きなことであったと考える。発展途上国での栽培面積が全体の54%を占めているのである。当初、遺伝子組換え作物の技術は、先進工業国の、しかも大規模農業者にしか益をもたらさず、また環境にも悪影響を及ぼすものとして大きな反対があった。これらが全くの間違いであると証明されたことになる。

 これに対して、我が国における遺伝子組換え(GM)作物および食品に関する受容性は、あきれるほど低い。私が2014年10月に札幌市の地下歩行空間で行ったアンケートでも、まだまだ遺伝子組換え作物および食品に反対の人々がいる。例えば、「値段がどれほど上がっても遺伝子組換え食品を輸入すべきでない」とする方が26%も存在する。一方、「仕方がない」が38%、「問題ない」が15%で、「輸入されているとは知らなかった」が21%であった。

 最近、同様の調査が米国でも行われた(http://news.ncsu.edu/2014/12/kuzma-tech-food-2014/)。その結果によると、18%が「新技術拒否グループ」で、GM食品をいかなる条件でも購入しないグループ、19%は「技術嫌悪グループ」で、安全性の利点がある時のみに購入するグループ、23%は「価格指向グループ」で、GMの存在にかかわらず値段で買うグループ、40%が「利益志向グループ」で食品が栄養や安全性を強化していた場合、GM使用に関わらず購入するグループである。これは、もっともな結果と評価している。我が国もこの程度になることを望むところである。

 さて、日本のアンケート結果の解析をさらに進めた。つまり「値段がどれほど上がっても遺伝子組換え食品を輸入すべきでない」とした方々の内容の分析である。一例を挙げると、「GMを使っていないとの表示」の理解度をみると、「わからない」が56%、「GMが全くない」が20%で、「正しく理解している」は、15%に過ぎない。また、最近GM不分別表示の食品がでてきているが、その理解度を問うと、「わからない」が59%で、正しい理解は18%しかなかった。これをみると、日本の一般の消費者は、遺伝子組換え作物・食品の正しい理解をせずに、感情的に反対しているのであると言えよう。

 この点において、非常に興味ある事実として、このアンケートを回答してくださった方々に、お礼に全国生活協同組合が売っている不分別表示の食用油を差し上げたが、受け取らなかった人は誰もいなかった。また、北海道庁が最近室蘭、北見、札幌で遺伝子組換え作物および食品に関する意見聴取の会を行い、その際に意見聴取対象者として選んだ方々に「遺伝子組換え作物及び食品」の可否を聴取しているが、予想通り全員反対であったと聞いている。しかし、その中に地域の生協の理事さんが含まれるとのことで、自分で売り出していながら反対をするという矛盾を犯していることに気づいていない。実体を全く知らないということになる。生協に全ての責任を負わせるつもりは毛頭ないが、いかに理解度が低いかの例であろう。

 これらのことは、行政が、そして科学者が、正しい情報発信をしないことにも大きな責任がある。私も大学で教鞭を執り、社会に正しい情報を流すように努力をしてきており、今でもやっているつもりであるが、まだまだ不足であると反省している。また、我が国、特に北海道の科学者(大学教授)の中に、既に取り下げになった論文の内容(遺伝子組換え食品が発ガンを促進するとの誤報)を何度も広報する者がいるのは、私からみるととても考えられないことである。先の理化学研究所の例にあるように、取り下げた論文をあえて正しいとする学者はいないのである。科学的根拠がないことを科学者が述べることの是非は今更言うまでもないだろう。加えて、一次産業に大きく依存する北海道の立場を著しく悪くしている。

 一方、表示法の問題も大きいと考える。表示をすれば、何か悪いことがあるかもしれないとの誤解を起こすことを再認識すべきである。先年、公正取引委員会に申し入れをしたが、予算がないので調査しないとの返事をもらったことがある。きわめて残念であるが、仕方がないと思って今のところなにもできない歯がゆさを感じている。

 このように、2014年は、遺伝子組換えに関する正しい理解を進めるつもりであったが、全くうまく進まなかったのは、残念でならない。しかしながら、わずかではあるが理解が進んでいるのも確かであると感じられるところもあった。つまり、先のアンケートで「食品で気になる点」を質問したところ、「遺伝子組換え」との答えは、極めて低い順位で、産地、食品添加物、賞味期限、価格、カロリー、残留農薬などよりも遙かに少ないものであった。つまり、もうあまり関心を引いていないのかもしれない。これからは、農業生産者の方々や行政の方々、誠意ある学者と協力して、活動を続けたいものと決心したところである。

 私の友人の1人は、私に「世渡りが下手ですね。」とコメントして下さった。私は、そのコメントは正しいと思っているが、決して先に挙げたような「世渡りの上手い学者」にはなりたくない。科学とは何かをきちんと示すのが、科学者(特に自然科学者)であり、大学人だと信じている。決して政治的なことや感情に流された「学者」にはなりたくない。愚直だが、着実に2015年こそ北海道で組換え作物が少なくとも試験栽培され、その良さを農業生産者の方が実感できるように努力したい。また、遺伝子組換え作物・食品の正しい理解、特に安全性の理解が進むように努力して、2016年には、遺伝子組換え作物の栽培にこぎ着けたいと夢見ている。言い換えると、我が国が本当に科学技術立国として進むことが直に感じられる年になるように貢献したいと願っている。資源のない我が国が生き残るのは科学、技術しかないと考えている。賛同下さる皆様のご支援をお願いしたい。

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