再生医療からバイオ医薬品へ~レギュラトリーサイエンストラップからの脱出~

 昨年は再生医療の実用化に向けた制度整備が大きく進んだ1年でした。再生医療新法および医薬品医療機器等法が昨年11月25日に施行されました。

 特に、医薬品医療機器等法では、再生医療等製品に対して、「安全性が確認され有効性が推定されれば、期限付き条件付きで承認を与える」という画期的な制度が導入され、更には、期限付き条件付きで承認を与えられた再生医療等製品にも公的保険を適用することが認められました。これら一連の制度整備によって、日本は再生医療を実施する上で、名実ともに世界で最も環境の整った国となり、既に多くの外国企業が日本進出に向けた検討を始めています。

 生きた細胞や組織を治療に用いる再生医療を薬事法に取り込んだことで、徹底した規格化と均質化を求める薬事法はその基本哲学を変化させようとしています。「期限付き条件付き承認」は、従来の薬事承認のプロセスで言えば、安全性を確認するフェーズIを終了し、薬効を確認するフェーズIIがある程度進んだ段階で承認するようなものです。膨大な数の比較試験を行うフェーズIIIは行わず、市販後にその効果や問題点を確認するフェーズIVにその役割を委ねました。

 現在、世界では新薬が生まれ難くなっていると言われています。欧米でもフェーズIIでのドロップが増え、フェーズIIIにおいては求められる治験の数がここ10年で倍増。その結果、開発費用がファンドの許容するコスト範囲を超え、開発途中で打ち切りとなる候補薬も多くなっているようです。新薬の有効性について統計的有意性を確認することが、レギュラトリーサイエンスに基づく薬事承認の基本になっていることから、既存薬との微妙な有効性の差異を証明するためにより多くの治験が求められる傾向にあります。バイオ医薬品が主流になりつつある医薬品開発においてこの傾向は益々顕著になっています。

 しかしながら、抗体医薬を始めとするバイオ医薬品は、有効性が患者や疾患部位の特性に左右されることが一般的であり、対象患者の範囲を広げれば全体としての有効性の値は小さくなります。データが示す微妙な差異を統計上の有意値にするためには、更に多くの治験者が必要になります。こうして現在の新薬の開発は、専ら統計上のデータ造り競争となり、いたずらに治験者を増やしてコストが膨れあがる「レギュラトリーサイエンストラップ」に陥っていると思われます。しかも、なんとか承認まで辿り着いた医薬品は、コストが高い割に有効性が低いという皮肉な結果になってしまいます。

 こうした中、今般の薬事法の改正では、「再生医療」を取り込むことで、治療の特性を踏まえてフェーズ3を行わないという「例外的」措置を正面から認めることになりました。これと呼応するかのように、昨年7月に、「抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドライン」に基づき、癌の治療薬である「アレセンサ」と「オプジーボ」が承認されました。いずれもフェーズIIIは実施せず、申請から10カ月以内に承認されました。

 勿論、これらはあくまでオーファンドラッグとしての扱いによるものですが、こうした承認のあり方は今後のバイオ医薬品の進むべき道を示していると思われます。これまでの「万人への投与」を前提としたブロックバスター狙いから、「コンパニオン診断薬」等を用いて患者を絞り込む「個別化医療」に軸足を移していくことこそがこれからの医薬品産業が進むべき道です。

 世界中がレギュラトリーサイエンストラップに苦しむ中、いち早く日本がここを抜け出すことが出来れば、再生医療に引き続きバイオ医薬品の分野においても、世界で最も開発に適した環境を実現することも夢ではありません。

 本年が医療分野における次なる反転攻勢の年になることを心から願い、新たな政策に取り組んで参ります。