温故知新、免疫制御による医療イノベーション、パラダイム・シフト

 免疫制御の研究に本格的に取り組んだのは、1993年に米国ラホヤ免疫アレルギー研究所(La Jolla Institute for Allergy and Immunology)に留学してからである。所属した研究室は、当時所長の石坂公成先生のラボで、IgE抗体産生抑制因子の研究に従事した。その後、Bリンパ球の抗原提示能が低下することにより、抗原特異的にヘルパーTリンパ球を低下させ、結果的にIgE産生が低下するという結論に至った。この作用機序はアレルギー疾患に限らず、免疫応答の異常が原因で起こる疾患全般の治療に応用可能だと考えられたが、留学から企業に戻ってからは医薬品の開発ステージに乗らなかったため研究は終了した。ところが次の勤務先である理化学研究所でもBリンパ球を標的とする免疫制御機構に出会うことになる。そこではナチュラルキラーT(NKT)細胞によるIgE制御機能の実用化研究に従事した。そのリガンド化合物KRN7000は、1990年初頭に名取らによって沖縄の海綿から抽出された強い抗腫瘍を示すアゲラスフィン類から有機合成された化合物で、その後早期の医薬品化が期待されたが開発は中止になった。その理由は2000年以降に明らかになり、KRN7000の複数回投与で標的細胞は樹状細胞(DC)からBリンパ球に遷移し、NKT細胞は免疫賦活作用よりも免疫抑制作用が優位になるからである。レグイミューン社では、KRN7000をBリンパ球に優先的にデリバーできるリポソーム製剤をプラットフォーム技術(reVax)として、制御性Tリンパ球(Treg)を生体内で増殖させる創薬開発を展開することになった。

 昨年、免疫チェックポイントPD-1/PD-L1の阻害抗体医薬が上市された。癌治療領域において、Tregの機能抑制の重要性を証明した医療イノベーションの幕開けである。同時に、Tregを生体内で増殖させることができる当社技術が免疫異常の疾患治療に有効であることを実感した年でもあった。米国で実施中の造血幹細胞移植後GVHD予防の第I/IIa臨床試験において、KRN7000リポソーム製剤の単回投与で血中Tregの上昇を認めたからである。本年はKRN7000リポソーム製剤の上市へ向け、現在協議中のパートナリング契約を完了させなければならない。

 移植領域におけるパラダイム・シフトは、移植免疫寛容の誘導による免疫抑制剤からの離脱である。昨年、平井らはマウスの完全アロ骨髄移植モデルにおいて、KRN7000リポソーム製剤とCD40/CD40L阻害抗体の同時投与により、中枢免疫寛容を伴う骨髄キメラ形成と長期間の移植拒絶抑制を示した。この技術は将来、ヒトの臓器移植分野において、免疫抑制剤フリーでの移植片の長期生着を期待させる。さらにiPSバンク構想における他家細胞や再生臓器の移植においても福音となることに疑う余地がない。また、多くのお問い合わせを受けている難治性アレルギー疾患の治療についても、当社技術を一刻も早く実用化させて、患者さんが安心して社会生活を送れることを願いたい。