シングルセル&アリル解析によるデジタル化された転写制御解析

 新春のお慶びを申し上げます。

 以前は高嶺の花と思われていた超並列(次世代)シークエンサー解析も、機器の普及やシークエンスコストの低下に伴い、現実的なアプローチとしての立場を確立させています。最もコストの高い全ゲノムシークエンスは受託でも30万円程度になっています。この超並列シークエンシングによるゲノム解析によってがんや希少疾患を含めた多くの疾患関連変異が同定され、RNA-seqやChIP-seqなどのエピゲノム解析は転写メカニズムの詳細を明らかにしてきました。

 一方で、この解析を行えば必ず新しい発見が見いだされるわけではなく、次世代シークエンシングの持つ特性を生かした研究のデザインが求められています。さらには、「超並列シークエンサーが使えるので何をしようか」ではなく、「これを知りたいから超並列シークエンサーを使いたい」という生物学的なクエスチョンが前提にある研究デザインが求められています。

 ヒトを構成する細胞は数百種類あると言われています。各々の細胞の分化状態を決める分子基盤を明らかにすることは、ヒト発生のメカニズムの理解につながり、そしてがんをはじめとする疾患の原因解明の糸口になりえます。「どのように多様な分化状態を生み出すか」これは生命科学が解くべき重要な課題です。

 2014年は理化学研究所の高橋政代博士のグループで、世界初のヒトiPS細胞より作製された網膜色素上皮細胞の移植が行われました。この仕事はiPS細胞を網膜細胞へ精密に分化誘導することで可能になった成果です。これに続くiPS細胞の他の体細胞への応用でも分化制御が鍵となります。このように細胞分化を理解することは、医療応用の観点からも重要な役割を果たすことが期待されています。

 さて、1950年代にWadingtonによって提唱されたepigenetic landscapeは、多能性幹細胞が様々な分化状態の細胞を生み出す概念です。ここで重要な点は、「細胞分化の分岐点」です。例えば、造血幹細胞は、骨髄系幹細胞とリンパ系幹細胞に分岐し、骨髄系幹細胞からは赤血球やマクロファージ、血小板などが産生されます。このような細胞の分化状態の変化は連続的に起きている一方で、表面抗原などによって分化状態を階層化させる従来の手法では、このような連続的な分化状態の変化を捉えることには限界があると考えられます。

 このような経緯から、並列シークエンサーを用いたシングルセルRNA-seqによって細胞の分化状態を追跡する研究がこの1年で増えてきました。この解析では、細胞集団に存在するヘテロ不均一性を利用して、連続的な細胞分化の変化を捉えることを可能にしています。

 シングルセル解析は組織や臓器の最小単位レベルを対象にすることから究極の解析と言われますが、そこで転写されている遺伝子は2本アリルの両方、あるいはいずれかから発現しています。すなわち、シングルアリルにおける転写制御を明らかにすることが「真の究極」であるとも考えられます。このようにシングルセルにおけるシングルアリルレベルでの転写を観察することで、生命現象をデジタル化して理解できるのではないかと思っています。これはシングルセル解析だけでも、バルク(細胞集団)のアリル特異的解析だけでもだめで、その二つが融合して始めてデジタル化に成功すると思っております。シークエンシング技術とバイオインフォマティクスを駆使し、細胞分化という生命現象のキーイベントをデジタル化して観察することを、2015年の抱負とさせていただきたいと思います。

 このような基礎研究への思いのほかに、「国民総ゲノム時代」が現実味を帯びている今、何をすべきか考えながら一年を過ごそうと思っております。本年が皆様にとって素敵な一年になりますように。