IT創薬元年

 富士通は、04年にバイオIT事業開発本部を設立し、IT創薬への取り組みを開始した。10年の節目にあたる2014年、東京大学先端科学技術研究センターおよび国内製薬企業とのIT創薬共同研究プロジェクトにて「de novo設計で新規活性化合物が高ヒット率で実現できる」ことを実証した。いわゆる「既存化合物ライブラリからのスクリーニング」ではなく、「標的蛋白質の立体構造をもとにゼロから論理的に設計できる」と示せたことは、新薬を創出する効果的な手段がひとつ増えたという意味において意義深い。まさに「IT創薬元年」と称すべき重要な年であった。

 IT創薬の中核技術は、分子シミュレーションである。標的蛋白質とリガンド分子の相互作用は、本質的に統計現象なので、系のある瞬間的な状態だけをみて考察すると、誤った理解に陥ってしまう場合がある。この点で、分子動力学(MD: Molecular Dynamics)の時間発展を利用した統計的解析は理に適っている。数十万原子にもおよぶ系の、長時間にわたるサンプリンングと解析には膨大な計算を必要とするが、「京」を初めとするHPC(High Performance Computing)の進歩によって、10年前には困難だった大規模計算が実行可能となり、より現実に近いシミュレーションができるようになった。これがIT創薬の成功を支えている。

 2014年には「ポスト京」(エクサ級)の開発が始まり、計算能力の大幅な向上が期待される。一方で、より網羅性が高くかつ効率の良いアルゴリズムの開発や、HPCがもっと身近に使えるようにするための工夫も、実用化のためには重要である。また、IT創薬がカバーできていない部分も多々残されており、これらへの取り組みも必要である。

 2015年以降も共同研究の形態を継続していくなかで、IT創薬のカバー範囲拡大とスピードアップを推し進めていきたい。