再生医療の付加価値を付けるために

 最近、再生医療関連のイベントやシンポジウムに参加していますと、時代が大きく動き変わっていく音を感じつつあります。特に2014年は、再生医療新法の施行という国の一歩が、大きく時代を揺らし始めたエポック的な年だったのではないかと感じています。

 私自身が再生医療分野に入ったのは2005年ですが、あの時期の再生医療においては、どの人の集まりにおいてもふと見上げると、「なにか出口が見えないような息苦しさ」や「時代の流れの遅さへのモヤモヤ」のようなものが必ず会場にいたように思います。しかし、今それは「期待」と「熱気」に追い出されつつあるように感じます。また同時に、その期待と熱気が、以前のような夢見がちなものから、かなり現実を知った冷静さを伴ったものに変質しつつあることを感じ、再生医療が産業としての可能性を着実に獲得しつつあると感じています。コーヒーのCMではありませんが、このような時代の変化は、まさに「誰かの仕事と熱意でできている」わけですから、ここまで時代を動かされた方々に深い敬意を感じずにはいられません。さらに、2011年6月に生まれた再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)の会員企業が、いまや150を超えるまでになったと聞きますと、これはブームというよりも、国造りへの変化であり、今まさに立ち上がるべき、という思いに満たされます。

再生医療にブランド化のコンセプトを
 このため、2015年再生医療が産業化に向けてどう進むのか、大きく注目するところです。この再生医療の産業化の成功を目指すとき、私は日本の再生医療の付加価値を何で作るのか、という点は非常に重要だと考えています。日本が誇るべき優れた研究成果、優れた治療成績、という二つの前輪の馬力を活かすためには、「科学をモノに変換するテクノロジー」と、「モノを国益に変換するブランド力」という後輪の馬力を、もっともっと強化する必要があるのではないでしょうか。特に、個人的には日本人が苦手とするブランド化のコンセプトを、他産業から再生医療は学ぶべきと強く感じます。特に、再生医療を待ち望まれる方々を想うとき、何がブランドとして大事なのか、日本の再生医療のブランド力は何なのか、長期計画が重要ではないかと思います。鍛錬と頑張りと工夫の積み重ねで作る高額な治療用細胞は、ブランド力になるのか。不器用でセンスのない人にはできないという日本独特の繊細な操作ノウハウは、ブランド力になるのか。再生医療行程の単なるオートメーション化は、ブランド力になるのか。固定概念や旧来の権威に囚われないコンセプト作りが大きく後に響くのではないかと思うのです。私個人は、再生医療においても、ブランド力の形成には標準化対策と品質管理技術の推進が重要ではないかと感じています。また、再生医療の産業化に向けて、何がエネルギーとなるのだろう、と考えるとき、私は「バイオベンチャー」と「新分野での人材育成」に大きな鍵があると考えています。

バイオベンチャーに集う熱意
 かつての大学発ベンチャーブーム時に比べると数は多くはないかもしれませんが、国内では近年、独創的なバイオベンチャーが強い輝きを放ってきていると感じます。ヘリオス、サイフューズのような再生医療系だけにとどまらず、スパイバー、ネオ・モルガン研究所、などのご活躍は、何にも代えがたい魅力をこの分野に与えていると思います。バイオベンチャーのご活躍、また、これを牽引する若い研究者やカリスマ、ここに集う熱意の塊のような若者達の姿が学会やマスコミに広がるにつれ、進路に悩む学生さんたちに変化が生まれてきているのを、アカデミアとしては大きな影響として感じています。「夢に人生を賭けてみてみようかな」という気持ちが若き土壌から芽生えるのを、ゆっくり着実に後押ししているのです。これは国造りとして、大事な成功であると思います。

若手をいかに旅させるか
 バイオベンチャーの気概の広がりと並行して、再生医療という新分野に全力投球してくれる若い世代を、いかに連続的に生み出すことができるのか、というのがアカデミアに課された重要な努力目標と感じます。トップ研究者やバイオベンチャー創業者のナンバー2や懐刀が10歳も離れてポツリポツリ、、、では、継続的なエネルギーは出にくいと思うのです。International Society for Stem Cell Research(ISSCR)が高校生をターゲットとした啓蒙活動に大きな力を注いでいるように、また、TED (Technology, Entertainment, Design)の愛聴者が海外ではとても若い世代であるように、再生医療という新分野の楽しさ、可能性、そして「イケテル感」を、私自身も受けとったバトンとしていかに増幅して配布できるかが、底力となって将来を変えるはずではないかと思っています。 このため微力ながらトライしているのは、学生さんの企業・研究所・大学を問わない国内インターンの実施です(インターンというよりは荒海に送り出すだけですが)。違う大学、違う研究室へと渡り、揉まれ、新しい人達と同じ釜の飯を食って帰ってくる学生さんたちが、強烈に成長してくるのを間近でみますと、「ちょっと難しいか・・・」「あまり意味がないか・・・」と自分尺度の感覚に縛られていたのは自分だったのだ、と深く反省されられる思いです。 多くのバイオベンチャーが優れた年配者や先導者による未経験者のリードによって成功しているように、いかに身近な若手の人材に旅をさせるかが、大事なバトンになるのだと、改めて痛感する今日このごろです。実際、彼や彼女がいれば、自分はいらない、自分はまた別なことを広げられる、という人材の輪廻ができるとしたら、なんと素晴らしいことではないかと思うのです。

 新年は、「再生医療の産業化」、「バイオベンチャー」、「新分野での人材」という3つのキーワードに大きく期待を持つとともに、自らも微力ながら全力で貢献したいと思います。