「創薬ベンチャーによる新薬創出への期待」

 昨年12月に行われた衆議院選挙の自民党の熱狂なき圧勝で、アベノミクスが承認された。2015年10月に予定されていた消費税増税が延期となり、景気回復が財政均衡に優先される。しかし、高齢化が進む日本において、医療・介護等に支出され増大する社会保障費への具体的な対処策は示されていない。安価なジェネリック医薬品の使用が促進される一方で、高額な抗体医薬や高度医療の導入も加速されており、日本の公的保険制度の抜本的な見直しの時期が来ているかもしれない。社会的負担まで考慮にいれた、医療経済的に価値のある医療・新薬が提供される仕組みが必須であろう。

 2013年に発表された『日本再興戦略』のアクションプランプランの1つである「戦略市場創造プラン」では、健康長寿産業が戦略的分野の1つに位置付けられた。健康寿命を延伸させる日本の医療システムが経済成長の一翼を担うことが求められている。医薬品産業に限定しても、日本は数多くの医薬品を創製してきたゆえに、高い期待がかけられるのも頷ける。しかし、ブロックバスター品の特許切れに直面した国内大手製薬企業は、グローバルメガファーマ同様、クロスボーダーM&Aに活路を見出しており、日本発の新薬を創出する可能性はむしろ低下していると言えるかもしれない。

 魅力的なシーズがアカデミアに存在する。イムノオンコロジーの領域で新たな潮流を作った、本庶先生が見出した抗PD-1抗体ニボルマブの例を挙げるまでもなく、数々のファーストインクラスの医薬品が日本のアカデミアに由来する。アカデミア創薬にとって最初の難関となる探索研究から前臨床評価までの『死の谷』を超えるために、創薬支援ネットワークや創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業のような公的支援策が整備されたのは意義がある。しかしながら、日本のアカデミアの有望なシーズの研究開発を進めるためには、リソースが限られる公的支援策では不十分であることは明白であり、アカデミア研究をビジネスに繋ぐベンチャーが必要である。文部科学省は、アカデミア研究からのベンチャー創出を目標として、平成24年度に大学発新産業創出拠点プロジェクト(STARTプロジェクト)を開始した。平成26年度までの3年間で58プロジェクトが、ベンチャーキャピタル等の事業プロモーターの支援を受けながら研究開発を進めており、既に2社のベンチャー企業が設立されている。ただ、医薬品開発を目的としたプロジェクトは6件にとどまり、創薬ビジネスの育成の難しさを表している。そうは言っても、日本経済を牽引する医薬品産業をさらに発展させるためには、日本発の新薬を数多く創出するしかなく、その役割を創薬ベンチャーが担うべきだと考える。

 2015年は、日本が創薬立国としての輝きを取り戻すための起点となる年になることを期待している。そのキーワードは、「日本医療研究開発機構(AMED)」、「官民イノベーションプログラム」、そして「人材の融合」である。AMEDは、日本再興戦略の目玉の1つとなった日本版NIHである。今まで3省に分かれて投入されていた公的資金が、医療の視点で統合される。さらに、国家戦略に基づく資源配分がなされることで、重点施策の研究開発が加速されることが想定される。将来イノベーションに繋がる可能性がある新規性は高いが評価が難しい研究課題とのバランスなど、難しい舵取りが求められるだろうが、柔軟な複眼的思考を持ちながらリーダーシップを発揮して頂きたい。「官民イノベーションプログラム」で発足される4大学のベンチャーキャピタルが、学会・論文発表で終わっていた研究を次世代の産業を支える基盤研究へと発展させるという使命を常に意識され、合計1000億円のファンドを有効に活用して頂きたいと思っている。

 そして、この2つの新たな取り組みに命を吹き込むのは、異なるバックグランドを持った「人材の融合」であることに対する異論は少ないはずだ。グローバル競争の最前線に立つ研究者、創薬ビジネスを切り開いてゆく人材、資金調達や経営管理について豊富なノウハウを有する人材、生命産業に携わる上で求められる薬事規制や倫理に精通する人材、そして国家戦略に基づき実行プランを描く人材の融合である。学・産・金・官という垣根を越え、健康寿命の延伸と経済成長という目標が共有化され協業が成し得れば、日本の創薬ベンチャーが新薬創出の主要プレイヤーとなると考えるのは楽観的であろうか?

 2015年は、期待が実現に向けて動き出す年になることを願ってやまない。