日経バイオテクでは12月22日号で遺伝子治療を特集しました。そして12月23日、厚生労働省は「遺伝子治療等臨床研究に関する指針を定める件(案)」に関するパブリックコメントを開始しました。他の研究指針との整合性や諸外国の動向など、遺伝子治療の臨床研究をめぐる状況の変化を踏まえた見直しを行うというのがその趣旨ですが、本誌でも時宜を得た企画だったと言えましょうか。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495140336&Mode=0

 自画自賛はさておき、2004年に制定された旧指針からの変更の1番は、遺伝子治療の定義と範囲に関するものです。これまでは、「疾病の治療」がその目的でしたが、「疾病の治療や予防」と、予防にまで範囲が広げられました。

 これに伴い、対象疾患の要件から「重篤な遺伝性疾患、がん、後天性免疫不全症候群その他の生命を脅かす疾患又は身体の機能の著しく損なう疾患」が削除され、遺伝子治療等の臨床研究の対象は、以下の全ての要件に適合するものに限るとされました。すなわち「遺伝子治療等臨床研究による治療・予防効果が、現在可能な他の方法と比較して同等以上であることが十分に予測されるものであること」「被検者にとって遺伝子治療等臨床研究により得られる利益が、不利益を上回ることが十分に予測されるものであること。また、当該研究が予防を目的とする場合には、利益が不利益を大きく上回ることが十分予測されるものであること」の2つです。

 そして次に、多施設共同研究を行う場合には、「総括責任者」を置くことが規定されました。総括責任者とは、「複数の機関で実施する遺伝子治療等臨床研究において、研究者及び研究責任者に必要な指示を行うほか、当該研究に係る業務を総括する研究責任者をいう」のだそうです。

 何当たり前のことを言っているんだ、と一瞬思いましたが、いや大事なことだと思い直したのは、22日に「J-ADNI研究に関する第三者調査委員会 調査報告書」が公開されていたからでしょう。
http://www.u-tokyo.ac.jp/ja/news/notices/3454/

 研究データの修正・改ざんが疑われていたこの「日本におけるアルツハイマー病の、脳画像診断を用いた、先導的研究(観察研究)」は、厚労省科研費から2億1700万円、NEDO橋渡し促進技術開発事業から20億9000万円、JST統合化推進プログラムから7400万円の予算が付いていました。

 厚労省は今年8月に東京大学に調査・検証を要請、そして第三者委員会が下した結論は、改ざん指示はなく、データセンター職員による誤った修正指示や統一性のない修正は、ヒューマンエラーによるものだった、というものでした。データセンターのデータチェックを統括し最終責任を有すべき者は定められていなかったのだそうです。報告書では、「J-ADNI研究の組織やデータセンターの方針として誤った修正が行われたり、研究代表者等による恣意的な修正が行われていた事実は何ら認められない」としています。

 研究代表者は統括責任者ではなかったようです。ただし、責任という点では、「そもそも、研究開始に先立ち、様々なマネジメント体制を整えるべき責任は、第一義的には研究代表者にあったものと思われる」としていますが。報告書は、「特に研究代表者には、プロジェクト全体を統括する役割が求められるべきで、この役割を実効的に果たすために、研究代表者を補佐する組織を設置しておくことが望ましい」「今後、多額の国費が投入される多施設大規模臨床研究においては、その社会的責任を踏まえ、より高度のガバナンス体制を構築することを検討すべきである」と締められています。ガバナンス……最近よく聞く言葉です。

 これに対して「厚生労働省としては、同報告における責任の所在や再発防止策の指摘などを真摯に受け止め、本研究の来年度以降の実施に向けては、新たな研究班体制により、再発防止策を踏まえた適切なマネジメント体制の整備が必要と考えています」との見解を示しています。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000069606.html

 研究の続行に前向きな姿勢です。また、これで、凍結されていた東大への「早期・探索的臨床試験拠点」の予算も執行されるのでしょうか。

 最初に戻ると、遺伝子治療のパブリックコメントの期間は、1月21日までです。

                       日経バイオテク編集長 関本克宏

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