隔週でメルマガを担当している日経バイオテク副編集長の久保田です。

 先週から今週にかけて、アルツハイマー型認知症に関連して、2つの大きなニュースがありました。大塚製薬による米Avanir社買収と、米Biogen Idec社のBIIB037の臨床試験の結果です。

 大塚製薬は、主力製品である統合失調症治療薬「エビリファイ」(アリピプラゾール)の米国での特許切れが来年に迫る中、4200億円という大型買収を決めました。その評価額の大きな部分を占めるのが、アルツハイマー型認知症に伴うアジテーション(行動障害)を対象にフェーズIIIを実施予定のAVP-786(重水素化デキストロメトルファンとキニジンの配合剤)です。

 大塚製薬、米Avanir社を約4200億円で買収へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20141202/180827/

 上記の記事にもありますが、買収の背景には、認知症を始めとする神経疾患領域の開発・販売力を強化したいという大塚製薬の思惑があります。興味深いのは、アルツハイマー型認知症に伴う行動障害、というAVP-786の対象疾患。行動障害とは、認知症の認知機能障害とは異なり、行動・心理症状(BPSD)に属するもので、具体的には徘徊や興奮、介護への拒否などを指します。

 確かにこれらの行動障害は、医療や介護の妨げとなり、臨床・介護現場では大きな問題となっています。大塚製薬によれば、米国のアルツハイマー型認知症患者の50%に行動障害が見られるとの指摘があるそうで、AVP-786の開発が成功すれば、相当な市場が期待できるというわけです。

 ただ一方で国内では、認知症の人(早期診断された方も含め、認知症患者とも言わない流れが出てきています)のこうした行動障害にはケースごとに理由がありそうだ、という認識が、介護施設や在宅医療の一部の現場で出てきています。現場では、限界もあるものの、それぞれの個性に応じて対応することなどで行動障害が見られなくなることも分かりつつあります。認知症“患者”に“一律の医療や介護”を施すからこそ、行動障害が出てしまうと考える医師や介護士も少なくありません。

 本当に行動障害の“治療薬”が出てきた場合、臨床や介護の現場でどのように使われるのか、あるいは使われないのか。個人的には非常に興味を持ちました。おそらくそれは、医療者や介護者自身が、認知症や行動障害をどのように考えるか問われるということでもあるでしょう。

 一方、Biogen Idec社のBIIB037は、スイスNeurimmune社よりライセンスを受け、アルツハイマー型認知症を対象として、同社が開発している抗Aβヒトモノクローナル抗体。脳内のAβを除去して、認知機能を上げ、病態の進行を抑制する効果が期待されています。

 そのBIIB037について今週、ドイツ銀行の投資家向け会合でBiogen社の担当者が、フェーズIbの中間解析結果に言及した模様。BIIB037のフェーズIbにおいて、脳内Aβレベルの低下や、認知機能改善が認められたと明らかにしたと、海外メディアが報じています。

 近年、残念な話題続きだったアルツハイマー型認知症の新薬開発で、久々の明るい話題です。Biogen社はフェーズIbの結果を持って、フェーズIIIを開始する見込みとのこと。なお、BIIB037に関しては、別の薬剤開発でBiogen社と提携しているエーザイが、共同開発・共同販促にかかるオプション権を保有しています。

 「根治療法を早く開発してほしい」という臨床や介護の現場の声に応えられるかどうか。BIIB037のフェーズIIIの行方に、世界中が注目することになりそうです。