スタチンが骨疾患に、PPAR-γがアルツハイマー型認知症発症予防に有効かもしれない。

 近年、既に市販され、広く用いられている薬剤が持つ別の効能・効果を発見するドラッグリポジショニングが注目されています。

 昨年8月には、武田薬品工業が、米Zinfandel Pharmaceuticals社と、アルツハイマー病に起因する軽度認知機能障害の発症リスクを予見するバイオマーカーを用いた評価手法の検証とともに、AD-4833の投与による発症遅延効果を評価する臨床試験を開始したと発表しました。

 このAD-4833は、PPAR-γアゴニストで、現在、糖尿病治療に用いられているピオグリタゾンです。これまでの検討で、アルツハイマー病に起因する軽度認知機能障害の症状進展を遅らせることが示唆されているそうです。

 また、9月には、京都大学iPS細胞研究所が、軟骨無形成症にスタチンが有効な可能性を示唆する研究結果を発表しました。患者由来iPS細胞から分化させた軟骨細胞にスタチンを投与すると軟骨形成が回復したというもので、FGFR3の遺伝子変異で軟骨無形成症が起こること、FGFR3の遺伝子変異で起こる疾患にスタチンが有効である可能性を示唆するものです。

 東京医科歯科大学疾患多様性遺伝学分野テニュアトラック講師の岡田随象氏は、昨年Natureに発表した論文で、10万人のゲノムを対象にGWASによる解析を行い、関節リウマチの感受性遺伝子を同定しましたが、その中に、新たな乳癌治療薬として期待されている薬剤の標的であるCDK4/6がありました。岡田氏によれば、これまでの「ゲノム創薬」は、候補となる標的の同定の後に機能解明などさらに研究を進めてきた経緯があるが、創薬という目的だけを達成するという意味では、今回の成果は関節リウマチにCDK4/6という標的を見つけているといいます。GWASは基礎研究を進める上で有効な手法の1つですが、薬を創るというピュアな目的にも有効だと言えるでしょう。

 また、東京医科歯科大学難治疾患研究所ゲノム応用医学研究部門・分子細胞遺伝教授の稲澤譲治氏は、「細胞の種類や時期的な違いなどにより遺伝子やmiRNA、蛋白質の機能は変化するということだ。こうした経験から、細胞文脈(cellular context)を常に考えなければならないと感じている。(中略) 細胞文脈を把握し、細胞の状態を少し変えてやれば、薬剤がもっと効きやすくなる状態をつくり出せるのではないだろうか。こうした細胞文脈を変えるような薬剤は、直接抗腫瘍効果を持つ薬剤とは違うが、癌治療薬である。優れた芝居の脚本では主役を引き立たせる脇役が仕立てられているように、癌の細胞文脈を読み解くことで、主役(主薬)の効果を増強する脇役(脇薬)を見いだすことができるはずだ。」と語っておられます。

日経バイオテク10月27日号「キーパーソンインタビュー」、東京医科歯科大学難治疾患研究所分子細胞遺伝分野教授の稲澤譲治氏に聞く
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20141030/179906/

 この記事は、抗癌剤開発を進める上での新しい視点を伺うインタビューでしたが、driver mutationに対する薬剤だけを探そうとするのではなく、driver mutationに対する薬剤の効果を引き立たせる「脇薬」を探すことも有効で、それはドラッグリポジショニングに通ずると指摘されています。

 あるいは、癌ゲノムシーケンスの研究を進めることにより、発症から治療介入によるゲノムの変化を予測でき、それに基づき、新しいレジメンを構築できるのかもしれません。レジメンとは本来、薬剤の組み合わせのみを指すのではなく、薬剤の組み合わせと時間的な要素を組み合わせた考え方です。基本的に病勢進行が認められるまで投与し続ける今のレジメンは本当に正しいあり方なのでしょうか。

 日経バイオテクでは、12月10日に創薬におけるゲノム情報の活用法について議論するセミナーを開催します。

 上述した岡田氏、稲澤氏のほか、東京大学脳神経外科講師の武笠晃丈氏には癌ゲノムシーケンスについて、京都大学iPS細胞研究所初期化機構研究部門山中研究室特定拠点助教の渡辺亮氏には一細胞解析などを中心に最新の考え方に関して話題提供していただきます。

 セミナーは、12月10日13時から東京・秋葉原で開催します。詳しくは以下のサイトをご覧下さい。
http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/141210/

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                         日経バイオテク 加藤勇治