皆さん、お元気ですか。

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 錦織選手がパリのATPツアーで準決勝に進出、年末にロンドンで開催されるテニスの年間チャンピョンを決定する試合への出場権を得ました。また、今回の勝利で世界ランキング5位に上昇、伊達選手の日本人最高ランク、4位に肉薄、さらに世界の男子テニスの4強の一画を狙うところまで上り詰めました。来週から始まる最終戦が本当に楽しみです。ところで10月4日から始めたTwitterご覧いただけましたか? とうとう10000人以上がフォローするまでに成長しました。ありがとうございます。新しい動きはまずTwitterでご報告いたします。本日は世界の製薬企業がスマホをどう活用しているか? 企業ランキング情報をアップしました。また、Wmの憂鬱の記事をアップした時も、Twitterでも報告します。皆さん、フォローいただければ、ニュースを効率良く、かつ持続的に、タイムリーに入手することができます。
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 さてバイオです。

 2014年10月24日、米食品医薬品局(FDA)は組み換え血液凝固第VIII因子「OBIZUR」(Antihemophilic Factor (Recombinant), Porcine Sequence)の製造販売認可を与えました。米Baxter社が開発した新型血液凝固因子で、インヒビターが血中で増加した獲得性血友病A患者の治療薬だ。しかし、よくよく見ると、これはブタの血液凝固第VIII因子であり、かつてブタ・インスリンが遺伝子組み換えの登場により、ヒト・インスリン製剤に置き換わったバイオ医薬の歴史に逆行する。その背景には深刻なバイオ製剤の問題が秘められていた。

 OBIZURは非常に希な獲得性血友病A患者(AHA)の急性出血の治療薬としてオーファンドラッグの指定を受けている。この病気は家族性の血友病Aと異なり、高齢者に男女の別なく発症する。頻度は極めて低いが、一度出血すると血液凝固第VIII因子の活性が低く、止血できないため、死に至ることもある重篤な病だ。原因は不明だが、自己のヒト血液第VIII因子に対する自己抗体などにより活性が低下していることによって発症する。

 OBIZURはブタのアミノ酸配列を持つ血液凝固第VIII因子であり、患者の自己抗体と結合することが無く、投与した患者の血中で血液凝固作用を発揮する。臨床試験では28例中28例で出血の改善が示された。しかし、OBIZURはブタの蛋白質であるため、患者は投与を繰り返すうちに、異物として認識、抗体を発生することは避けられない。そのため、投与スケジュールは患者の血中の凝固第VIII因子の活性をモニターしながら慎重に決定される。

 Baxter社がOBIZURの開発を行った目的は、希少病のアンメットニーズに応えることが第一義だが、決して美談だけではない。実は遺伝子組み換えで製造したヒト血液凝固第VIII因子を投与された患者にも自己抗体(インヒビター)が発生しているためだ。一度インヒビターが発生した患者では抗体により血液凝固第VIII因子の活性が低下するため、投与量を増加させなくては止血できなくなる。2012年夏に我が国で初めて月間医療費1億円突破の患者が報告されたが、この患者はインヒビターを発生した家族性血友病A患者であった。

 ヒト血液凝固第VIII因子の前駆体は2351アミノ酸で構成され、シグナルペプチド-ドメインA1-A2-B-A3-C1-C2を有している。肝臓から分泌される時に、前駆体が自己切断され重鎖(A1-A2-B)と軽鎖(A3-C1-C2)の2 本鎖が形成される。実際には2本鎖はカルシウムイオンなどを介して結合している。Bドメインは自己切断される箇所が複数あるため、血中の天然型の血液凝固第VIII因子は分子量の異なる多様な分子の集合体として存在しているのだ。Baxter社やドイツBayer社はより抗原性の低いバイオ製剤を開発すべく低分子化やPEG化などの努力を重ねているが、血液凝固第VIII因子は複雑な巨大分子で、なかなか抗原性の低い安定した製剤を開発することに難渋している。加えて家族性血友病Aの患者は生まれつき、血液凝固第VIII因子を欠損している場合が多く、投与された血液凝固第VIII因子がヒト型であっても、異物と認識して自己抗体を発生するリスクが高いという悪条件も重なっている。

 こうした制約の結果、遺伝子操作で製造したヒトの血液凝固第VIII因子製剤ですら、投与が長期化せざるを得ない家族性血友病A患者でも、自己抗体(インヒビター)が将来間違い無く深刻な問題となるのだ。OBIZURはこうした血友病A治療の危機に対応する切り札でもあるのだ。先祖返りのような技術でも、商業化する合理的な理由がある。最も期待できるのが、中外製薬が開発中の2抗原特異抗体ACE910だ。分子構造が全く血液凝固第VIII因子と異なるため、インヒビターを持つ抗体でも止血効果がある。現在、臨床試験フェーズI/IIを進めている。ただし残念ながら、後で述べる理由から、この抗体製剤でも自己抗体発生のリスクからは逃れ得ない。

 実は、血液凝固第VIII因子ほどではないが、あらゆる生物製剤に自己抗体のリスクは存在する。中でも自己抗体発生リスクが懸念されるのが、皮肉にも抗体医薬である。抗体も出生後に免疫細胞の中で遺伝子組み換えによって製造される新物質である。そのため、健常者でも僅かだが、自然状態でも抗体に対する自己抗体が生産されている。抗体医薬は遺伝子工学で製造された1種類の抗体を自然状態では想定できない濃度で投与、治療効果を得る。結果的にどうしても、抗体医薬の自己抗体が発生する。抗腫瘍壊死因子αの抗体医薬である「レミケード」(キメラ抗体)や「ヒュミラ」(ヒト完全抗体)など多数の抗体医薬が販売されているが、皮肉にもヒュミラに対する自己抗体の発生率が、レミケードより高いデータがある。現在の遺伝子操作技術では、自己抗体を減ずる誘導体を合理的に開発することができない限界を認識すべきである。

 自己抗体による慢性的な副作用などは、粘り強い長期の観察研究が必要です。遺伝子操作が開発されて32年、まだまだこの技術の安全性を確認する研究と、製造法の改良研究は続けなくてはならない。長い戦いを覚悟しなくてはならない。その分、バイオ医薬のジェネリック薬を開発するのも困難であるという利点もあるのが救いである。

 今週もどうぞお元気で。

            日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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