昨日エボラ出血熱の疑いがあるとして羽田空港から国立国際医療センターに搬送された男性から、エボラウイルスは検出されませんでした。とは言え、もちろん油断は禁物です。

 今朝、週刊誌の広告に「空気感染の恐れも!」という文字が躍っていたので、びっくりして読んでみたら、米国のノンフィクション作家へのインタビュー記事でした。それによると、本来エボラウイルスは乾燥した場所では長く生きられないのだが、活動を停止した状態で埃に乗ったウイルスの粒子が人間の肺に吸い込まれて湿気を与えられると活動を再開するというような、変異の可能性が指摘されているのだそうです。RNAウイルスが変異しやすいのは良く知られたところですが、空気感染するというデマは世界中に広がっているようです。タマネギやコンデンスミルクのような抗菌作用のあるもので対処できるといったデマと一緒に。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/ebola_qa.html

 10月24日に厚生労働省が開催した「一類感染症の治療に関する専門家会議」は、エボラ出血熱の治療に関して、「安全性および有効性が未確立の治療の提供は日本においても倫理的に許容される」としました。また、未承認薬の使用にあたっては、治療データを収集し、世界と共有すべきであるとも加えられました。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000063142.html

 またこの会議では、エボラ出血熱に対する治療状況をまとめた資料が公開されました。それによると、現在シエラレオネで頻用されている薬剤は、
・次亜塩素酸消毒液
・消化管粘膜保護剤
・経口補液(ORS)
・痛みが強い例にはオピオイド
・乳酸化リンゲル液
・マラリア治療薬
・解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン)
・広域抗菌薬(注射・経口)
といったもので、対症療法しかないことが分かります。

 一方、使用することが検討されている主な治療薬として、アビガン(ファビピラビル)、TKM-100802、ZMapp(モノクローナル抗体混合物)などの治療薬と、rVSV-ZEBOV、Cad3などのワクチンが挙げられています。その説明は、

・アビガン:富山化学工業が開発。経口剤。日本で抗インフルエンザ薬として承認。エボラウイルス感染に対しては、ヒトやサルでは実証されてはいないが、マウスで有効性を示唆するデータがある。催奇形性がある。:今回の流行で一定の条件の下、緊急対策として患者に提供。少なくとも4例に投与。現時点で国内に2万人分の錠剤を有し、原薬としてさらに30万人分程度の在庫を保有。

・TKM-100802:テクミラ・ファーマシューティカルズ(加)が開発。靜注で使用。健康なボランティアへの高容量の1回投与では、頭痛、めまい、胸部圧迫感、心拍数の増加がみられた。:米国FDAがエボラウイルスの曝露後予防・治療目的での緊急時使用を許可。今回の流行で少なくとも1例で使用されたことが報告されている。効果は不明。2015年始めまでに900回分の生産能力が見込まれる。

・ZMapp:マップ・バイオファーマシューティカル社(米)らが開発。靜注で使用。動物実験(サル)で有効性を示唆するデータあり。ヒトでの安全性試験は行われていない。:今回の流行で7例に投与。効果は不明。現時点では安全性の懸念情報は報告されていない。現在在庫なし。今後の供給量も不明。

・rVSV-ZEBOV:カナダ公衆衛生庁の国立研究所が開発。ニューリンク社(米)が大量生産や臨床試験の責任を持つ。動物実験(サル)では全20固体で防御された。:第1相試験を米国で実施中。年内に初期データが得られる見込み。カナダ政府がWHOに800-1000回分寄付すると発表(8月12日)。

・Cad3:GSK社(英)が製造。動物実験(サル)では全16固体で防御された。:第1相試験を米国、英国、マリで実施中。年内に初期データが得られる見込み。来年初めに第2相試験を西アフリカで行う予定。

・備考:そのほか、患者回復期血清が治療に使用されている事例がある。

 いずれも臨床開発の初期段階であることが分かります。これから治療という名の試験が始まるのでしょうか。その投与経験、データが大切にされることを祈ります。

                       日経バイオテク編集長 関本克宏

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