先日、バイオ年鑑の取材のため、化粧品に関するB to B(ビジネス to ビジネス)の展示会に参加しました。

 個人的には、ここ数年、学会に参加することばかりで、展示会は久しぶりの取材参加でした。そのため、ビジネスをしている方々の熱気に当てられ、こちらも少し興奮しながら各ブースでお話しをお聞かせいただいた次第です。

 化粧品のB to Bと言えば、ヒアルロン酸やコラーゲンなどの保湿や、成分の浸透性を高めるナノ粒子やリポソームなど、医薬品開発でもよく聞くキーワードが並びます。各社がさまざまな取り組み方をしていて興味深いのですが、注目した展示の1つは、47都道府県の原料を用いた化粧品シリーズです。

 例えば、北海道はユリやシラカバ、青森県はリンゴ、なるほどと見ていくと、埼玉県はレタス、神奈川県はレモン?、兵庫県は米?、広島県はゴーヤ?。 地域の特産というよりは、各地域で付加価値のある農産物を作ろうと努力している農家やハーブ園、はては農業高校の温室などの農作物を原料に使っているようでした。

 私自身は使用経験に基づく実感がないのですが、こうした混合物あるいは混合物に含まれる特定の成分が生体にどれほど影響を与えるのか、と考えるたびに思い出すのが、7年前に、当時東京女子医科大学の教授でいらした鎌谷直之先生の言葉です。

東京女子医大鎌谷所長、
effect sizeが個体間の差に近いのだからマイクロアレイ解析には細心の注意が必要
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/1915/

 当時、DNAマイクロアレイを用いた研究では、遺伝子発現の解析と患者の状態の相関を解析する論文が数多く発表されていましたが、そのうちの多くの論文に欠陥が見つかったと発表されていました。

米National Cancer Institute、
DNAマイクロアレイを用いたがん研究の欠陥指摘、ガイドライン発表
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/1438/

 このNCIの発表を受けて、鎌谷先生に取材に伺った結果、鎌谷先生曰く、「これまで研究されてきた遺伝病などは、関与する遺伝子のeffect size(効果)が非常に大きかったが、がんや生活習慣病などでは、個々の遺伝子のeffect sizeが小さい。植物や実験動物は純系を作製することで遺伝的バックグラウンドを同じにすることは可能だが、ヒトは個人間にバリエーションがあることが前提。この個人間の違いを超えるか超えないかというレベルのeffect sizeを持つ遺伝子を見つけようというわけだから、研究戦略にも実験にも細心の注意が必要だ」ということでした。

 近年、抗癌剤開発では、driver mutationが標的となり、いくつかの大きな治療効果を示す薬剤が開発されています。driver mutationは、増殖に対してeffect sizeが大きいから、その阻害薬は高い効果を示すのでしょう。

 では、effect sizeの小さい要素は、無視できるものでしょうか。あるいは創薬の標的にはならないのでしょうか。1つ1つの要素は、例えば単独では治療標的にはならないけれど、発症や進行に欠かせない要素ではないかと感じます。こうしたお話しを、長く癌研究に携わっている東京医科歯科大学の稲澤譲治先生に伺いました。この記事は、次号の日経バイオテクに掲載します。是非ご覧いただき、皆様のご意見いただければ幸いです。

 最後に化粧品に戻りますが、素人ながら、エキスの作用機序は、基本的にはポリフェノール類の抗菌や抗酸化作用、多糖類による皮膚バリア作用や膨潤による保湿作用ではないかと考えていますが、各エキスに含まれる成分が少しずつ効果を発揮し、細胞の向かう方向を少し変えているのかもしれません。まっすぐ向かっている細胞の運命を、1つの成分はわずか1度か2度程度、傾きを与えるだけかもしれません。しかし、他の要素が重なり、あるいは絡み合ったとき、方向を20度、30度と変えていくのではないか、などと考えている次第です。

                                                                  日経バイオテク 加藤勇治