もう手垢の付いた話かもしれません。最近、取材で先生方のお話を伺った後、必ず思い出していたのが、10年ほど前に観た「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」という映画です。

 織田裕二氏演じる青島刑事が主役の連続ドラマの映画版ですが、その映画は、ピラミッド型の警察組織が、首謀者がいない、プロフェッショナルな集まりが目的だけを共有して起こす犯罪に立ち向かうというものです。この映画は、その後、組織論を学ぶ題材としてさまざまな書籍になったようで、ご存じの方もいるかもしれません。

 警察組織は、指揮官をトップに、現場の刑事や警察官が情報を集め、指揮官が判断し、命令を下します。一方、映画の犯罪グループには首謀者はいませんでした。この犯罪グループは、目的だけを共有しており、参加している人間は各々に意志決定権があり、目的に向かって自ら判断し、行動します。首謀者がいないため、首謀者の性格を反映した行動パターンなど、これまでの犯罪の経験から考えられる行動の類型化ができず、当初、警察は翻弄されてしまいます。刑事や警察官も、現場ではいろいろ考えるものの、指揮官の判断の迷い、遅れにより行動が制限され、なかなか犯人にたどり着けません。

 しかし、もう1人の主役である、現場をよく知る警察官僚に指揮官が交代し、現場の意見を重視して、現場に裁量権を与え、現場の判断に「責任を取るのが私の仕事」と語り、そして事件は解決に向かいます。所轄官庁が複数にまたがり、レインボーブリッジ1つ封鎖できない有様に、犯罪グループが「(リーダーがいない自分たちの組織は)究極の組織だ」「リーダーなんかいるから個人が死んでしまうんだ」と言いましたが、最後の青島刑事の一言は「リーダーが優秀なら、組織も悪くない」でした。

 さて、取材の内容は「癌幹細胞」。癌幹細胞があるという考え方が提唱されたことで、癌は組織学になりました。では、癌組織は、従来の警察型の強いヒエラルキーがあるのでしょうか、それともこの犯罪グループのように、癌幹細胞は首謀者ではなく構成要素の1つであり、体内で癌組織を維持し、拡大していくために、癌幹細胞を含めたさまざまな細胞が自らの行動理念に基づいて動き、お互いに影響し合って(支え合って)いるのでしょうか。こう書くと、後者のように感じてしまいますが、一方で、癌幹細胞は自らを鍛え、酸化ストレスや宿主免疫と戦い、薬剤を細胞外に懸命に汲み出し、生き残っている強いリーダー像にも重なります。

 これまで人類はさまざまなことを生物から学び、社会に応用してきました。しかし、人間、あるいは人間社会の行動原理は体内で起こっている生理活動の原理と基本的には同じである、と考えれば、今ある組織論をよく研究すると、癌組織で起こっていることを類推することができるかもしれません。

 10月13日発行の日経バイオテクでは癌幹細胞創薬についてまとめました。是非ご覧いただき、皆様のご意見いただければ幸いです。

                        日経バイオテク 加藤勇治