遅ればせながら、ですが、「炎症性疾患のマウスモデルにおける遺伝子発現変化はヒト疾患をよく反映する」という藤田保健衛生大学の宮川剛教授らの研究が注目を集めています。敗血症や感染症、火傷、外傷などで起こるヒトの遺伝子発現の変化と、モデルマウスで起こる遺伝子発現の変化が非常に似ていることを、バイオインフォマティクス的な手法で明らかにしたものです。
http://www.pnas.org/content/early/2014/07/31/1401965111.abstract
http://www.fujita-hu.ac.jp/ICMS/topics/mousemodel/index.html

 何を今さら、と思われるかもしれませんが、事の発端は昨年1月。スタンフォード大学やマサチューセッツ総合病院など23組織からなるコンソーシアムが、マウスはヒトの炎症性疾患のモデルとして適当ではないという論文を発表したことにあります。炎症性疾患の患者と健常人から血液を採取したmRNAをマイクロアレイで解析し比較した結果と、同様の比較をモデルマウスで行った結果では、遺伝子発現の変化にほとんど差がなかったというものでした。
http://www.pnas.org/content/110/9/3507

 一方の宮川氏らは、これまで160以上もの異なる系統のマウスを解析し、複数の精神・神経疾患モデルを同定してきました。昨年報告した統合失調症のモデルマウスでは、行動異常だけでなく、脳内の遺伝子変化のパターンもそっくりであることが示されています。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130207/166046/

 これらの経験から宮川氏らはコンソーシアムの報告に疑問を抱き、コンソーシアムが報告で用いたものと全く同じデータを、類似度を検出する感度の高い、異なる方法で解析し直した結果、異なる解釈が得られたという訳です。宮川氏らは、ヒト疾患のマウスモデルを作成・解析する際には、ヒトとマウスとで共通している部分に注目することが重要であるとしています。

 ここで思い出したのが、抗癌剤の開発におけるマウスの役割でした。昨年末に医薬品医療機器総合機構(PMDA)の科学委員会が出した「抗がん剤の非臨床試験に関するとりまとめ」では「マウスとヒトの違いという点で大きな壁があり、特に免疫では全く異なり、そこをどう考えるかが重要」と指摘され、今年4月には今後の議論の方向として「非臨床がんモデルとしては、ヌードマウス皮下にヒトがんを移植したXenograftモデルがこれまでの主流であったが、よりヒトがんに近い形態を指向した同所移植モデル、遺伝子改変マウスがんモデル、がん幹細胞モデルなど多様化している。非臨床薬効評価に活用するにあたり各モデルの可能性と限界についてどう考えるか」ということが挙げられています。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20140514/176190/

 的確なモデルマウスの作成と、そして評価が、ますます重要になっています。

                       日経バイオテク編集長 関本克宏

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