国立遺伝学研究所のWEBサイトに、「特に直接消費者に遺伝情報を提供するDTC(Direct-To-Consumer)については、注視していく必要があるだろう。専門外の研究者がヒトゲノムの現状を知るのにも有用なものとなっているので、多くの方に読んでいただけると幸いである」とあったこともあり、ゲノムテクノロジー報告書「ヒトゲノム解読の現状と倫理的・法的・社会的問題に関する検討報告:今後のテクノロジーアセスメントに向けて」を読んで見ました。
http://www.nig.ac.jp/archive/1422/1546.html

 この報告書は「テクノロジーアセスメント報告の試作―ヒト全ゲノム解読の時代の社会的課題を例に」(研究代表者は国立遺伝学研究所の井ノ上逸朗教授)の成果としてまとめられたもので、最初に言い訳してあるように、テクノロジーアセスメントを実施してその結果をまとめるには資金的・人的・時間的リソースが足りないため、その前段階としての課題の洗い出しに止まっているところがやや残念ですが、現状を知るには確かに有用だと思いました。

 さて、その中のDTC遺伝子検査サービスの項では、遺伝子情報に関する専門家や医師を迂回する形でのサービスの提供が行われることには現在までに多くの課題が指摘されており、その質と規制の手段を明確にしていくことが重要であるとの前提のもと、「DTC遺伝子検査会社は、個人によるゲノム情報の取得が自ら健康管理に主体的に取り組むきっかけを与えるという“empowerment”のレトリックを頻繁に使っている。このような論理は国全体をカバーする医療保険制度を持たない米国社会において特に意味をもつものであるが、日本でも需要が広がる可能性は十分にある」と分析しています。

 また遺伝子検査サービスのもう1つの目的、バイオバンクの再設計の必要性にも言及し、元々個人の身体的侵襲を前提としている文書によるインフォームドコンセントは、情報を主に扱うゲノム研究において、人の権利を保護するために必ずしも最適な手段ではない可能性があることを指摘しているのも目を引きました。1人の研究主催者による1つの研究計画が1つの統治下で行われる臨床研究モデルから、データを横断的に連結させるモデルへと変換する中で、どのような対応が必要なのかが議論されているようです。

 そして私が最も注目したのは、「基礎研究と医療応用との再定置」という項目です。「研究から実用化の間をつなぐ『橋渡し』という言葉もよく聞かれるものの、ヒトを対象とするゲノム研究においては、基礎と臨床の区分が曖昧になりつつある現状を捉えた枠組みで考えなければならない」。そうか、ヒトゲノム研究にトランスレーショナルリサーチという概念はないんだ。何となく腑に落ちました。

 今月に入ってからも、DeNAライフサイエンスがDTC遺伝子検査サービス「MYCODE」の販売を開始したことや、トランスジェニックがサインポストと共同でDTC遺伝子検査サービスを開始することなどが報道されています。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20140818/178384/
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20140818/178458/

 「質と規制の手段」とはいうものの、基礎と臨床が渾然一体となって、現実先行で物事は進んで行くのでしょう。

                       日経バイオテク編集長 関本克宏

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