6月のハイライト

 これまで我が国では、組換え作物の栽培反対派から、米国などでは主食の小麦には組換え品種は使えない、トウモロコシとダイズは、米国では主食ではないのでやれるのだとの科学的根拠のない様々な噂が流れていたが、いよいよ遺伝子組換え小麦にも商業化の動きが出てきた。「オーストラリア、カナダ、米国の16団体は、遺伝子組換え小麦の将来の商業化への支持を確認する声明を発表した。2009年には、わずか9の農業生産者と製粉業者が契約した団体であったが、今年になって7者がこれに参加した。新規参加者には米国農場局連合会と全国農民組合がある」とのニュースは、大きなものである。

 一方、EUではそれぞれの国が遺伝子組換え作物の可否を決めるとの方向である。EuropaBioが「この案に関してバイオテクノロジー業界は失望するとの声明を発表した」のはもっともと思う。「非客観的な根拠に基づいたEU共通の政策を再国有化するのは、ネガティブな先例となり、単一市場の精神に反するものである」とEuropaBioのAndre Goig議長が述べているのは、至極当然のことである。さらに同氏の「特に、このことは、先に非科学的な根拠で拒否してきた加盟国を許す、危険な先例を設定することになり、革新的な企業にヨーロッパで活動するかどうかを決めるに当たってネガティブな情報になる」との見解はもっともである。日本もそうであるが、「最終的には、農業生産者が何を栽培したいかを決めることにならなければならない」ことであるし、そうあるべきと考えるのは私だけだろうか?

 よい成果として、オーストラリアでは、乾燥耐性の緑豆の開発が進んでいるようである。また米国ではβ-カロテンを多くした遺伝子組換えバナナのヒト試験が始まることもよいニュースだ。

 今月最大のニュースは、「オーストラリアの遺伝子組換え(GM)農業生産者が画期的な勝訴」である。即ち、遺伝子組換え(GM)カノーラが隣人の作物を汚染したとして告訴されていたMichael Baxter氏が、西オーストラリアの最高裁判所で画期的な勝訴を獲得した。これからもそのような良識あることが出てくるものと信じている。また、ニューヨーク州議会が遺伝子組換え表示案を可決できなかったことも当たり前のこととは言え、よいニュースだ。FDAの調査によると63%が表示を不要とする、米国民の進んだ考えを反映するものと言えよう。

 ところで、先に私は週刊文春のGM作物に関する記事の誤りを質したところであるが(週刊文春のGM作物批判記事、またしても偽科学を見分けられない日本のジャーナリスト;https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20140424/175627/)、友人の1人から「これは科学誌ではないから」という忠告をもらった。ところが、科学者であるべき北海道大学農学部の関係者が協力した「あぐり博士と考える北海道の食と農」という6月に北海道新聞社から発行された本を読んで、もっと驚いた。問題なのは、農学部名誉教授が協力したという「遺伝子組み換え」の章である。

 ここにも、「2012年にフランスの研究者が発表した研究結果には驚きました。除草剤をかけても枯れないように作られた遺伝子組み換えトウモロコシの実だけをネズミに2年間食べさせると、通常のトウモロコシしか食べないネズミに比べてがんが多く発生し、死ぬ割合が高かったそうです」とあるのだ。言うまでもなくこれは週刊文春の記事の根拠となったセラリーニの実験のことで、文春批判の繰り返しになるがこの論文は取り下げられているのだ。その前には、「1989年に、米国で食害事件がありました。化学メーカーが遺伝子組み換え細菌を使って作った栄養補助食品を飲んだ人のうち38人が亡くなり、多くの人が体調を悪くしました」とあるが、これはトリプトファン事件のことで、精製方法に問題があって不純物が含まれたものが販売されたことによる。

 私が見たところ、事実誤認に基づく記述が10個カ所も存在した。そして組み換え食品の安全性や、環境への影響に関して、問題があるように全体を誘導している。さらには、種子の知財権を認めないような記述まであるのには呆れてしまった。

 言うまでもないが、アカデミアの人間は科学的な知見に基づいて情報を発信することが責務である。私も同じ学部の卒業生の1人として、恥ずかしい思いで一杯です。

世界

国際機関が遺伝子組換え小麦の商業化支持を再確認
食品生産に対する遺伝子組換えの寄与が予期される

アフリカ

エジプトの農業と土地造成担当大臣の発言:国の利益のためにアグリバイオを!
ケニアの知事達は、GMOの解禁を呼びかけている
ビタミンA-の多い遺伝子組換えバナナがヒト試験に向かう

南北アメリカ

調査によると遺伝子組換え食品表示反対が多くなっている
遺伝子組換えサトウキビの予備的な状況観測が入手でき次第圃場試験を南米で開始
ニューヨーク州議会は、遺伝子組換え表示案を可決できなかった

アジア・太平洋

政策に関する円卓会議とメディアワークショップで東南アジアにおける遺伝子組換え問題を議論
オーストラリアのチームは、乾燥耐性緑豆を開発
オーストラリアの遺伝子組換え(GM)農業生産者が画期的な勝訴
ベトナムの国会議員と地域農業役員が遺伝子組換え技術の利点の説明を受けた

ヨーロッパ

EUの閣僚はGM作物の承認を再国有化することに同意
EFSAは、遺伝子組換えナタネに関する科学的見解を発表

お知らせ

アジアの食料安全保障に関する国際会議

文献備忘録

ISAAAは、遺伝子組換え作物の利点に関するインフォグラフィックを発行
ISAAAインフォマーシャル:遺伝子組換えについて皆はどう言っているのかな?
導入遺伝子の流れ:事実、憶測および考えられる対応策
ISAAA ブログにみる遺伝子組換えトウモロコシ農業生産者の物語
ISAAAは、改訂版農業バイオテクノロジーの冊子を発行

国際アグリバイオ事業団(ISAAA)アグリバイオ最新情報【2014年6月30日】

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