皆さん、お元気ですか。

 なんとワールドカップで興奮しているうちに、ウィンブルドンではナダルが無名の新星キリオスの豪速サーブの前に膝を屈しました。そのキリオスも、どうやら錦織選手を破ったラオニッチの超高速サービスで撃破されてしまいました。まったく、芝のコートは油断ならない。速さと巧みさの両方が要求される嫌味なコートです。この厭味ったらしさが、イギリスらしい。

 本当は我が国が誇るべき国産第三号の抗体医薬「オプジーボ」(ニボルマブ)やとうとう米国で認可された米Mannkind社の吸入式組み換えインスリン「Afrezza」の発売、我が国で先週、官邸に送付された健康情報信託建白書の件など目白押しですが、今回は打ち止めの意味も含めてSTAP細胞論文取り下げを論じます。もう飽き飽きした読者も多いでしょうがおつきあい願います。多分、理研の小保方晴子ユニットリーダーの再現実験参加に関して、理研の研究者がTwitterで「理研の倫理観にもう耐えられない」とつぶやいたようですが、その気持ちもわからない訳ではありません。が、Twitterの威力を過小評価し、社会の混乱に輪を掛けました。研究者には研究機関を選ぶ自由があります。巨額な研究資金にピン止めされた格好で、トラブル続きの理研で研究せざるを得ない辛さも共感できますが、STAP細胞騒動の根っこには理事や研究センター長、副センター長などの管理者や理研の研究リーダー達が、自分の研究以外は理研のことに他人事である無責任さにあったと私は思っております。それが見事に表出したということです。

 予想はしていたのですが、Nature誌の論文取り下げの言い訳も、科学者が真実を追求するという良心から出たものではなく、共著者の間の力学の結果出された政治的結論で、およそ科学とは縁遠いものでした。肩を落として日本の科学の行く末を案ずるばかりです。

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 Nature誌2014年7月3日で、同1月30日号に掲載されたSTAP関連論文2報(articleとletter)が取り下げられました。

 まず、注目すべきは、理研の研究不正調査委員会が論文の取り下げの必要がないと断じたletterも取り下げられ、もっと注目すべきは著者らによって調査委員会の指摘以外の5つのエラー!!が新たに論文取り下げの理由として加えられたことです。研究不正に関しては理研が認定したとNature誌の取り下げ告知文で触れていますが、あくまでも5つはエラーであると表現されている点も注目すべきであります。しかも、この不自然な訂正がSTAP現象生き残りのための意図的訂正である可能性すらあるのです。まったく、厄介な人たちです。

 新たな5つのエラーは以下の通りです。
http://www.nature.com/nature/journal/v511/n7507/full/nature13599.html
http://www.nature.com/nature/journal/v511/n7507/full/nature13598.html

1)letterの図1aと1bはES細胞由来とSTAP細胞由来の胚の比較ではなく、両方の図ともSTAP細胞由来の図の間違いであった。
→両方ともES細胞由来の胚でも説明がつきますが、本当にSTAP細胞由来であるのか、その訂正の根拠は示されていません。
2)articleの追加データの図7dとletterの追加データの図1aは同じ胚を撮影した別のイメージであり、当初の説明の2倍体キメラと4倍体キメラの胚であるいうことは誤っていた。
3)letterの図1aの右の図で長時間露光したと表記したが、デジタル処理の誤りであった。→これによってSTAP細胞の本当のインパクトであった胚だけでなく、胎盤も形成できる新規の万能細胞であるという科学者を熱狂させた根拠が薄弱となりました。
4)letterの図4b、STAP細胞とES細胞の図の表記を取り違えた。
→実はこれが最大の謎。図4bこそがSTAP細胞から特殊な培養によって誘導されたSTAP幹細胞がES細胞とエピジェネティックが類似しているということを主張する図でしたが、訂正すると、何故かSTAP細胞のエピジェネティック・パターンがES細胞にそっくりであることになり、STAP幹細胞こそES細胞ともSTAP細胞とも似ても似つかない細胞ということになります。この結果、すべての責任をSTAP細胞ではなく、STAP幹細胞に押し付ける効果が生じます。
5)これはSTAP幹細胞の作製の際、小保方RULが山梨大学の若山照彦教授に渡したSTAP細胞が、若山教授がSTAP細胞を依頼したマウスとは異なるマウス由来であった。
→既報(日経バイオテク)
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20140617/177015/

 論文取り下げの告知文では、STAP細胞やSTAP現象ではなく、これらの多数のエラーによってSTAP幹細胞現象が事実だといえないと言い訳していることが不自然です。

We apologize for the mistakes included in the Article and Letter. These multiple errors impair the credibility of the study as a whole and we are unable to say without doubt whether the STAP-SC phenomenon is real.

 STAP細胞はありますといっているHarvard大学Vacanti教授と小保方RULに遠慮したのかも知れませんが、これは潔くないし、論文取り下げ自体の意味を歪めるメッセージとなりました。新たなエラーの4)はその根拠ともなるものです。STAP細胞はarticleで記述した方法ではできない、したがってSTAP幹細胞も存在しないというのが、明快な説明であると考えます。

 論文取り下げによって新たな疑惑がでる。まったく悪の連鎖を断ち切れません。小保方RULが参加した再現実験では、疑問の余地のない検証が必要です。すでに、最終的にSTAP細胞は意図せざるES細胞の混入であったという結論になっても不自然ではない状況が、論文取り下げ告知文によって整っているのが、気になります。

 文部科学省は、STAP細胞の中途半端な終結を決して許してはなりません。

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 今週もどうぞお元気で。

            日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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