チェックポイント阻害とPseudo progression【日経バイオテクONLINE Vol.2075】

(2014.06.20 19:00)
久保田文

 前回のメールマガジンに続き、今回も5月30日から米国シカゴで開かれた第50回米臨床腫瘍学会(ASCO)年次集会の話題を取り上げたいと思います。中でも、空前絶後の盛り上がりを見せているのが免疫療法です。

 私もすべてのセッションはチェックしていませんが、免疫療法(Immunotherapy)と名の付くセッションはどこも満員だった様子。その勢いを実感しました。とはいえ、免疫療法に隅から隅まで関心が寄せられているわけではないようです。やはり主役は、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA4抗体などのチェックポイント阻害。細胞移植のような発表になると一気に聴衆の数が減っていました。

 今やチェックポイント阻害は早期開発の域を出て、婦人科や泌尿器科、頭頸部外科など、各がん種で続々と後期開発が進められています。加えて2種のチェックポイント阻害の併用、チェックポイント阻害と化学療法の併用など、組み合わせてさらに効果を高めようという試みがなされています。

 チェックポイント阻害の薬剤開発においては、バイオマーカー探索も本格化。効く患者と効かない患者を選別するための薬効マーカーに加え、効果を判定するためのバイオマーカー探しも進められています。効く患者を選別するマーカーはともかく、効果を判定するためのバイオマーカーが必要なのは、この手の薬剤を投与された患者の一部がPseudo progression(偽増悪)を起こすためです。

 Pseudo progressionとは、免疫療法によって活性化されたリンパ球が腫瘍に集簇し、まるで増悪したかのように腫瘍が大きくなる現象のこと。それにより原発巣が大きくなったように見えたり、新たに転移巣が出てきたように見えたりするのだそうです。もちろん一方で、免疫療法が効かず、純粋に腫瘍が大きくなったり、転移巣が出てくる患者もいます。

 ですから、増悪なのか偽増悪なのかを見極める術が求められており、効果判定のバイオマーカー探しが活発化しています。加えて、有効か無効かを、見極めるタイミングも重要。本当に増悪している患者は、タイミングを逃すと治療を変更する機会を逸してしまいます。今のところ見極めのタイミングは投与開始後3カ月程度というのが大勢のようですが、その後に腫瘍が縮小したといった報告もあり、完全に決着しているわけではなさそうです。

 こうした免疫療法の話題の豊富さに比べ、腫瘍を直接狙う化学療法は、なんとなく話題が少なかった印象です。特定の分子を狙った化学療法はドライバー遺伝子の変異や増幅を狙った薬剤は数々開発されているわけですが、そうした変異や増幅は、原発巣と転移巣で異なったり、原発巣でも治療経過に従って変化していきます。さらに最近では、同じ腫瘍(検体)の中にも、さまざまな変異や増幅が一緒くたになっていることが分かってきました。

 ある腫瘍内科医は「この腫瘍のヘテロジェネイティー(異質性)をどう克服するかが、今後の課題になるだろう」と指摘していました。また、現在判明しているドライバー遺伝子の変異や増幅などが見られない腫瘍をどうするかも課題です。

 あるがんの基礎研究者は「なんとなく分かったと思ったら、また新たな地平が出てきたような感じ」と言っていましたが、免疫療法のPseudo progressionにせよ、腫瘍のヘテロジェネイティーにせよ、がん治療薬の研究開発は一筋縄ではいかないと痛感した一週間でした。

                          日経バイオテク 久保田文

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