いよいよ今年も米国臨床腫瘍学会(ASCO)の時期が来ました。世界中の、がん診療に関わる医師、薬剤師や看護師、研究者の方々、そして世界中の製薬会社の方々もシカゴに集まり、さまざまな議論がなされます。参加される方、結果をニュースでご覧になる予定の方、皆さん楽しみにされていると思います。

 星の数ほどあるアブストラクトを見ていて改めて感じたのですが、抗癌剤の試験においては、さまざまな条件について、1つ1つ試験(研究)が取り組まれているということです。

 例えば、進行・再発がんの適応で承認された薬剤が、術後療法で有効か、術前療法の条件で有効か、どんな年齢層でも有効か、ステージ、人種、PS、転移臓器数、前治療数、組織型、リンパ節転移の有無ではどうか。それぞれの条件で、同じように効果が得られるのかどうかを確認していくために試験が取り組まれます。

 統計学的に有意であることを示すためには登録患者数も重要です。数百人、数千人と、大規模に臨床試験が取り組まれることも少なくありません。もちろん、細かい条件の違いだけで大規模な試験を行うことは現実的ではないので、サブグループ解析によって明らかになることも多いのですが。

 なぜそれぞれの条件で試験に取り組む必要があるのか。当然ですが、おなじ「乳がん」といっても、それぞれのセッティングで異なるからでしょう。これをはっきりと体現しているのは分子標的薬。分子標的薬の標的分子が「がんをがんたらしめている要因」であれば、がんの種類を超えて有効性を示すことができていることは、逆説的ですが、今までのカテゴリ分けはあくまで今までの知識に基づいているもので、新しい見方をすれば新しいカテゴリ分けができるということでしょう。乳腺科ではなく、抗HER2科に行く日が来るのかもしれません。

 近年、再生検による遺伝子異常の評価の必要性が叫ばれています。原発巣で評価した結果は過去のもので、転移に対する治療を行う際には既にその遺伝子変異は増殖に寄与していない、あるいは別の遺伝子変異の方が重要になってきていることも少なくないからだそうです。最近のゲノム解析技術の進歩により明らかになったのは、原発巣切除で得られた組織検体と転移巣切除で得られた検体のゲノムは大きく異なっていること。さらに原発巣と転移巣の相違は、がんの種類によっても大きく異なっているそうです。組織さえ得られれば、変異の変遷を網羅的に追うことができ、網羅的に追えるからこそ、一個体から得られる情報は「統計学的に有意な」ものとして考えられる時代になるのかもしれません。

 抗がん剤や循環器系の薬剤などについて学会取材をしていると、つい人数で何かを評価しがちな自分に気がつきます。今後は、1人の患者さんを経時的に追跡して標的や治療法を見いだしていく時代になるかもしれない、などと長いフライト中、夢想してみようかと思っています。