IV期の非小細胞肺がん(非扁平上皮がん)でEGFR遺伝子変異陽性の1次治療にEGFR-TKIを選ぶのはいいのだけれど、やめ時を見失いがちでね・・・

 昨年末、学会会場で、ある呼吸器内科の医師から聞いた言葉です。やめ時を見失うと言っても、フレアが恐いからではありませんでした。

 肺癌治療ガイドラインでは、IV期非小細胞肺がんで、非扁平上皮がん、EGFR遺伝子変異陽性の場合の1次治療は、「EGFR-TKI単剤もしくは1次治療で推奨される細胞障害性抗癌剤を行うよう勧められる」とあります。

 EGFR遺伝子変異が陽性であるのだし、EGFR-TKIが無増悪生存期間を延長することが分かっているのだから、1次治療はEGFR-TKIを選ぶべきだ。論理的に考えれば当然でしょう。しかし臨床試験では、1次治療としてEGFR-TKIとプラチナ併用療法を比較した結果、全生存期間に差がなかったことから、どちらを先に選択しても予後は変わらないと解釈され、「EGFR-TKIの最適な治療時期については結論が出ていない」ということになっています。

 しかし、冒頭の医師が言っているのは、こうしたエビデンスの話ではありません。「EGFR-TKIを1次治療として行うと、特徴的な副作用はあるものの、プラチナ併用療法に比べて副作用はマイルド。しかし、全生存期間に差がないのは、EGFR-TKIとプラチナ併用療法の両方を受けるから。EGFR-TKIが無効になり、2次治療としてプラチナ併用療法を行う際に患者への説明を行う必要があるが、ここで『辛い治療ならやめてくれ』『そんなに苦しい治療ならば、今の治療のままいけませんか』と言われる」のだそうです。画像評価でPDとなっていても、症状が悪化していなければ患者は“PD”を感じられないのでしょう。「やめ時」という言い方は少々誇張が入っていますが、QOLは治療戦略を左右する重要な要素と言えそうです。

 次は、数多くの薬剤が承認され、治療の選択肢が格段に増えた腎細胞がん。先月開催された日本泌尿器科学会のテーマの1つは、治療を変更する基準は何か、というものでした。

 病巣の直径を中心としたRECISTではなく、分子標的薬全盛の今、腫瘍内部の壊死を評価するために造影効果を指標に加えたChoiやSACT、MASSなどの基準などが有効ではないかといった議論がされる一方で、有害事象の種類による基準も示されました。

 つまり、分子標的治療によって標的分子を攻撃することにより起こる有害事象、抗腫瘍効果やOSなどと相関が示されている有害事象(on-target AE)であれば、積極的な治療、休薬や減量を行って極力マネージメントし、本来の治療をできるだけ継続することで予後の延長が期待できるのです。例えば、血管新生阻害薬をよく使っている施設は、降圧薬の処方が増えているでしょう。一方、分子標的治療の機序に関係なく起こる有害事象、有効性と相関のない有害事象(off-target AE)が起こった場合、それが重篤(あるいは患者が耐えられない)であるならば、積極的に薬剤の変更を検討すべきと議論されました。起こる有害事象によって治療を変えていく時代です。

 健康関連QOLに使われるFACT scaleを開発したDF Cella氏は、1996年の段階で、「不明瞭なQOLの評価にどれほどの重要性があるのか」といった問いに、「QOLは、ナチュラルキラー細胞を評価するよりも信頼性が高く、臨床的意義がある」と述べたそうです。ASCOの会長を務めたR. Schilsky氏も「生存に対する明らかな有効性を示すことが難しくなっている今、QOLの改善は重要になってきた」と2000年の時点で語ったそうです。2009年にFDAは、QOL、あるいはPROを効能表示の根拠として認める方針を打ち出しています。適切に定義され、信頼性の高い尺度で評価したQOLの改善効果があるならば認められるのです。今年のASCOでも、QOLは話題の1つになりそうです。

 側鎖の違いなのか、DDSなのか、あるいは、用量なのか、レジメンの工夫なのか、昼夜の投与時間の違いなのか・・・。副作用をできるだけ少なくし、QOLの維持を目指す研究開発は古くて新しい。そんな時代に入ったと実感しています。

 と締めくくろうとしましたが、先のCella氏のコメントを書いていて思いました。「ナチュラルキラー細胞を評価するより・・・」。免疫チェックポイントを阻害する薬剤に注目が集まる今、ナチュラルキラー細胞の評価の価値は18年経って変わるのかもしれません。既存のものの改良と革新的な進歩、結局は両輪です、という当たり前の結論になりました。

                          先進技術情報部 加藤勇治