こんにちは。隔週でこのメルマガを担当している日経バイオテク副編集長の河野修己です。今週は、国際細胞治療学会(International Society for Cell Therapy=ISCT)取材のため、パリに滞在しています。街中にコンビニが全くない光景は確かに美しいのですが、ビニール傘を売っている店が皆無で、雨予報になると大変です。

 先日、TBSラジオの「セッション22」という番組から、「小保方さんの件で批判を受けているが、真意を説明してほしい」という依頼があり、21日の放送に電話でゲスト出演しました。お聞きになった方もいらっしゃるかもしれません。私の伝えたかったことは、「アカデミアとそれ以外で、あの論文における瑕疵の捉え方は全然違う。そこを理解できないと、この問題の性質を理解できない」ということだったのですが、時間が限られるゲスト出演で、一般の方に分かっていただけたかどうか。

 さて、今日の本題はがん治療ワクチンです。がん治療ワクチンとは、「体外から抗原を投与して樹状細胞をがん特異的に活性化し、CTL(細胞傷害性T細胞)を誘導することで、抗腫瘍効果を得ようとする治療法」と定義できるでしょう。

 このがん治療ワクチン、実はピボタル試験で連戦連敗しています。私の知るかぎりでは4連敗です。時系列順に列挙すると、「OTS-102(オンコセラピー・サイエンス、膵臓がん、2012年2月に主要評価項目未達成を発表)」、「L-BLP25(Merck Serono社、非小細胞肺がん、2012年12月に主要評価項目未達成を発表)」、「C01(オンコセラピー、膵臓がん、2013年12月にフェーズIIIの中止を発表)」、「MAGE-A3 ASCI(GSK社、非小細胞肺がん、2014年4月にフェーズIII中止を発表)」。これに、がん治療ワクチンと細胞医薬の中間的な性格を持つ武田・Cell GEnesys社の「GVAX」の失敗(08年10月発表)を加えると、5連敗になります。

 GVAXの時は、「抗原が非特異的だったのでだめだった」と言われました。OTS-102の時、オンコセラピーの角田社長は、「1種類の抗原では十分な効果が得られないことが分かった。今後はカクテル型でいく」と説明しました。しかし、カクテル型のC01でも成功できませんでした。抗原はペプチドではなくたんぱく質の方がいい(OTS-102、C01、L-BLP25は抗原がペプチド)という意見もありましたが、全長たんぱく質を抗原とするMAGE-A3 ASCIも失敗しました。さらに、MAGE-A3 ASCIの臨床試験は、がん治療ワクチンが得意だと言われていた術後アジュバントのセッティング(転移状態と比較して術後アジュバントでは、体内に存在するがん細胞の数が少ない)だったため、がん治療ワクチンに期待する関係者のショックはなおさらだったのです。

 ここまで失敗が続くと、がん治療ワクチンというコンセプトそのものを疑問視する声が出てきても不思議ではありません。

 ISCTの会場でメディネットの鈴木邦彦社長を見つけたので、話を聞いてみました。同社は、樹状細胞療法の研究開発を行っています。樹状細胞療法とは、がん患者の樹状細胞を取り出し、体外で抗原と共培養して活性化し、それを患者に戻すことでCTLを誘導しようという治療法です。がん治療ワクチンと比較すると、活性化した樹状細胞によりCTLを誘導するという基本的理論は同じでも、そこに至るまでの手法が違うということです。

 鈴木社長は、「抗原を投与するだけでCTLまで到達できるのか確信が持てない。だから、我々は細胞療法にこだわっている」と説明してくれました。ただし、細胞療法では患者自身の細胞を使用するため、大量生産ができず費用が非常に高くなるという欠点があります。

 がん治療ワクチンがこの程度の失敗で終わりになるとはとても思えません。昨年の日本臨床腫瘍学会でも、医師主導治験の成果が数多く報告されていました。抗原やその組み合わせ、添加物など、検証の余地はまだまだあります。