「週刊文春」4月17日号および4月24日号に掲載された「米国産『危険食品』で子供が壊れる」「遺伝子組み換え作物から子供を守れ」と題された記事は、全く科学的根拠がないものであるばかりでなく、偽科学記事として一般を惑わすものである。このような記事は、科学技術立国に向け努力している日本の科学者・技術者を冒涜するものであり、訂正とともに、編集長、記者の真摯な反省を求めたい。

 もっとも問題だと考えるのは、「遺伝子組み換え作物から子供を守れ」の記事が、2012年に欧州食品安全機関(EFSA)が「研究設計に欠陥があり、その結論には何の根拠もない」としたフランスのセラリーニ教授の論文を基に構成されていることである。さらに2013年には、掲載されていたElsevier社のFood and Chemical Toxicology誌から、論文が取り下げられている。同誌の編集長は「ラウンドアップ除草剤とラウンドアップ耐性遺伝子組換えトウモロコシの長期毒性に関する研究報告を、査読者の調査と、報告されたデータの徹底的かつ十分な時間をかけた解析の結果、削除した」と述べている。すなわち、各試験群の動物の数と選択した動物種に懸念があり、全体的な死亡率や腫瘍発生率に関しての組換えトウモロコシまたはグリホサートの関与について結論を出すことはできないとした。この結論は、ドイツの連邦工科大学及びフランスバイオテクノロジー高等学院が出した結論と同じであるともしている(出典1出典2)。

 論文が取り下げられることの意味は、STAP細胞論議のおかげで十分に知られていることと思う。あえて繰り返せば、発表内容が全く存在しないものとなることである。記事中でもこの論文が削除されたことには触れているが、それにもかかわらず長々とセラリーニ教授の実験内容を書き、更にインタービュー記事まで掲載するということは、全く理解できない。

 これ以上の反論は不要だと思うが、あえて付け加えておくと、東京都健康安全センターが行った組換え大豆の試験、ラットを使った3世代104週に及ぶ実験がある(出典3)。この試験では、成人(体重60kg)の男性が750g、女性が730gを毎日摂取するのと同じ量をラットに食べさせたが、それでも組換えと非組換え間に全く生理学的・栄養学的な差がなかったとの結果だった。「ラットさん」はこんなに大豆ばかり食べさせられて大変だったと思う。

 さらに、欧州食品安全機関(EFSA)は、組換え作物の安全性に関する論文の再調査により、米国で承認された148種および日本での189種の遺伝子組換え作物に関して、従来の同等の品種と実質的同等性があることがわかったとしている。また、遺伝子組換え育種の方が従来の育種と比べて作物の組成に対して変化がより少ないことを強調している(出典4)。

 もう1つ重要なことを加えておきたい。「米国産『危険食品』で子供が壊れる」の記事では、メキシコでの子供への影響を遺伝子組換え製品を食べていることに原因づけているが、これは誤りである。子供の食事の内容の変化を、遺伝子組換え製品をとったためとミスリードしている。近年のインドにおける食事の変化による糖尿病や肥満の増加を見れば、その原因は明らかである。

 表示義務についても述べておきたい。現在の遺伝子組換え食品の表示は、「安全性」のためのものではなく、「消費者の選択」のためである。行政が、安全でないものを販売する許可をするわけがなく、それどころか非遺伝子組換え製品よりも厳しい審査を受け、承認されなければならないのである。ところが豆腐などには「遺伝子組換えを使っていない」とか「非遺伝子組換えを使っている」との表示がある。もちろんこの表示は、表示法に即したものである。しかし、この表示が原因で、遺伝子組換えは危ないものとの潜在意識が「週刊文春」の編集者を含む一般の方々に植え付けられている。これは大学生、一般の主婦などさまざまな層に講演会を行ってきた私の実感である。そこで、公正取引委員会に、この表示では困るとの抗議をしたこともある。私自身が遺伝子組換え製品の安全性の理解促進を目指して、表示法に従って「遺伝子組換え大豆95%以上」と表記した我が国唯一の製品を製造販売しているからでもある。この表示法のために誤解が多いので改訂して欲しいと申し入れたが全く聞いてもらえなかった。実際には、2003年11月28日から販売しているが、1件の問題もない。もっとも自慢できるほど売れているわけではないが。その理由は、上記の表示法による風評被害だと思っている。

 これ以上は別の機会に譲るが、品種改良がなくては、これからの食糧の確保や改善は不可能である。我が国の植物科学は、世界一流と言われる。しかし、農業はどうであろうか? 世界に遅れをとっているとしか言いようがない。食を確保しないで、これからが心配である。品種改良とは、遺伝子を変えることである。遺伝子組換えは、その延長にすぎない。その上、なにをどう変えたかがわかるので安全性の試験もできる。従来法では、どこがどうなったかわからないのに、それでも安全性の試験はいらないということには、理解に苦しむところである。

 科学技術立国を標榜する我が国がこのような有様では、行く末が懸念される。「農業科学が栄えて、農業滅ぶ」である。どうか「週刊文春」の皆さん! 目を覚まして、国民に正しい情報を提供してください。私は善意に解釈して、不勉強、調査せずに書いたものと信じたいのです。

 最後に、この件に関しては、「週刊文春」に質問状を出しております。質問に対する回答がくることを待っていることを付記します。