先日、ある国内製薬企業の研究責任者と話す機会がありました。自然と話題はSTAP細胞に移り、企業研究者の実験ノートや実験データの取り方に及びました。言うまでもないことですが、企業にとって実験ノートや実験データは、特許出願の根拠。特に新規の発明を「発想した日時」と「実証した日時」は、何より重要になります。加えて、少なくとも日本では、治験実施時や承認申請時にも、当局から実験ノートや生データの追加提出を求められることがあるそうです。in vitroで取得したデータやマウス実験の生データを、企業が提出した申請資料と矛盾がないかどうかを照合するのに使われているようです。

 企業が論文を発表する際には、「全て生データに遡って誤りがないかを、本人はもちろん上長などもチェックするのが規則」(同研究責任者)。加えて、実験ノートや実験データについては、上長が頻繁に記載手順、記載内容、誤記載の有無をチェックして、「常にクオリティコントロールを図っている」(同研究責任者)と言います。

 一方、今回のSTAP細胞の研究に関する最終報告では、主に実験を行ったとされる理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター(RUL)の小保方晴子研究ユニットリーダーの実験ノートが2冊しかなく、そこには実験日もろくに記載されておらず、実験データは私物のパソコンに保存されていたことなどが明らかになりました
関連記事 https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20140401/175177/)。切り貼りした電気泳動像や、全く別の実験の画像を論文に転用していた時点で、明らかなミスコンダクト(科学における研究不正、理研の内規とは別)であり、「論文の体をなしていない」(ある国立研究機関の研究者)訳ですが、それ以前にそもそも「研究の体をなしていなかった」(同研究者)ことが裏付けられたとも言えます。

 もっとも、アカデミアの研究者からも、今回の研究の記録のずさんさには「理解できない」との声が挙がっています。製薬企業などと創薬研究を手掛ける、ある国立研究機関の研究者は、「実用化を目指していることもあり、我々の研究は論文だけ出せばいいという世界ではない。再現性があることはもちろん、議論の土台となる生データなど、正確に記録を残すのは当然」と話します。論文の発表前には、研究チームで何度も生データについて議論し、あらゆる疑問を取り除くのが前提だそうです。

 STAP細胞の論文では、小保方RULの一番近くにいたCDBの笹井芳樹副センター長が、様々な理由を挙げて「事前にミスコンダクトを予防するのは難しかった」と釈明しました。小保方RULが研究室の主宰者だったとはいえ、生データについて笹井副センター長を始めとする共著者が全く議論しなかったというのは理解に苦しみます。文部科学省は理研に対し、第三者のみで構成した外部調査委員会を設置し、4月中に報告書をまとめるように指示した模様。共著者の間でどのような議論がされたのか・されなかったのかも含め、今回の論文執筆に至った研究の全体像が明らかになることを期待せずにはいられません。