皆さん、お元気ですか。

 本日の雨で東京では桜が散り始めました。今年は誠に短い命でした。週末で多分、桜は散り果て、入学式には残念ながら間に合いそうにありません。火曜日に花見と意気込んでいた私としては、実に複雑な気分です。葉桜見とでも、洒落のめすしかありません。人生うまく参りません。来週の水曜日、4月9日は、研究不正と判を押された理化学研究所研究不正に関する調査委員会の最終報告書に対する不服申し立て期限です。代理人によれば、そのタイミングで小保方さんの記者会見も予定されており、花見気分もそう長続きいたしません。彼女の人生を賭けた戦いが、膨れあがる組織に対応できない理研のガバナンスを正す契機になれば意味があると考えます。但し、訴訟の前に自らの正当性を検証することは避けられません。会見では一体どうしてこんなへんてこなことになってしまったのか?小保方さんが今まで行ってきた科学とか研究とは一体何だったのか? そして、誰がこうした科学のやり方を教え、誰が何を教えなかったのか? 文科省と大学の既存の教官達が、既得権を餌に、実質的に大学院教育の希薄化を進めた「大学院重点化政策」の誤りを、小保方さんから学びたいと真剣に考えています。皆さんの隣にも、重点化政策の賜が居るかもしれません。悲しいですが、要注意です。

 さて、バイオです。

 DDS(薬剤送達システム)の革新によって、80年代から90年代末まで、わが国の企業が世界をリードした“生体医薬”の復活が実現するかも知れません。抗体医薬全盛のバイオ医薬開発に新しい道が誕生したのです。本日、それを指示する海外からのニュースが飛び込んでまいりました。抗体、抗体と頭を抗体医薬で埋めているわが国の創薬担当者は少し考えを変える必要があります。昔からそうじゃないかなと考えておりましたが、理想のDDSさえできれば、生体医薬はヒトで効くか効かないかなど野暮なPOCを確かめることは生体医薬には不要だからです。

 そのニュースとは米MannKind社の経肺吸収インスリン製剤「AFREZZA」に対して2014年4月1日、米食品医薬品局のthe Endocrinologic and Metabolic Drugs Advisory Committeeが13対1の票決で1型糖尿病の血糖値改善薬として、また14対0の票決で2型糖尿病の血糖値改善薬としてそれぞれ販売認可を勧告しました。夏までにも認可されれば、超即効型のインスリン製剤として世界で初めて発売されることになります。

 組み換えヒト・インスリンは世界で初めて実用化されたバイオ医薬です。現在までに、様々な誘導体と製剤化技術の開発により、遅効性のベーシック・インスリンから即効性のインスリンの開発が進んでいます。最近では両者の組み合わせが、より精密な血糖値制御に使われるようになりました。しかし、問題は患者さんが毎日インスリン製剤を頻繁に自己注射しなくてはならないことと、即効型といっても食事の少し前には自己注射しなくてはならず不便さがあることです。一生自己注射を繰り返さなくてはならないのは、患者にとってもストレスになりますし、ペン型の簡易な自己注射器が開発されていますが、それでも注射部が硬化したり、発赤したり、死ぬまでインスリン自己注射をする患者にとって大きな負担となっていました。
http://www.investors.mannkindcorp.com/phoenix.zhtml?c=147953&p=irol-newsArticle&ID=1914798&highlight=

 AFREZZAは既に十分効果と安全性が30年以上確かめられているインスリンを、経肺吸収によって効率良く摂取させ、血流に乗って全身に行き渡らせる製剤です。そのため筋肉や肝臓、そして生体組織を形成するあらゆる細胞にインスリンを急速に供給することが可能なのです。お腹が減ったと患者が感じ、AFREZZAを吸引して食事をすることが糖尿病患者に可能となったのです。吸入後、12分間から15分間でインスリンの血中濃度はピークに達します。即効型のインスリン注射では、45分間から90分間でピークに達します。通常のインスリン注射製剤では90分間から150分間でピークとなります。

 これは頻回注射の負担とインスリン自己注射してからすこし空腹を我慢しなくてはならないストレスから、糖尿病患者を開放しました。QOLの改善だけでなく、室温保存や吸入器の簡便さから、注射製剤と比べてコスト削減も私は期待できると考えています。実際、AFREZZAは凍結乾燥した粉末であり、輸送や保存が極めて簡単で、その分、費用も削減できると考えます。

 MannKind社の粉末化技術、テクノスフェアは、低分子から分子量15万の抗体医薬までを包埋することができるDDSです。詳細はどこを読んでも判らないのですが、直径2μmの均一な粒子であり、現在使用されている経肺吸収助剤である乳酸よりも遥かに均一性が高いと同社は自慢しています。同社の独自の経肺吸収器で、肺の深部まで送達されると直に溶けて、細胞間質から吸収されるようです。現在、インスリンだけでなく、副甲状腺ホルモン、カルシトニン、GLP-1などのペプチド・たんぱく質も、テクノスフェアで包埋し、現在、臨床試験を行っています。少なくともバイオ医薬の注射製剤しか利用できないという制約も、今回の実用化が進めば、大きく打破されるかもしれません。特に、即効性が要求されるようなバイオ医薬には有用です。

 但し、経肺吸収型インスリンに関しては、FDAの認可を受けて米Pfizer社が発売を始めたものの、2007年10月にコストが合わないといって経肺型インスリン「Exubera」の発売を全世界的に停止、撤退したことが頭から離れません。これは米Nektar社のポリエチレングリコールを結合させた製剤でした。発がんのリスクなども噂されており、生体医薬の多機能性が単純なDDSだけでは解決できないことを示しています。MannKind社のAFREZZAは即効性ですぐ消えてしまうので、発がんリスクは低いでしょうが、本当にDDSによって生体内で生体医薬が同じように作用するためには、まだまだ狙った組織にターゲティングし、必要な時間だけ作用して、ぱっと消えるという二つの技術開発が必要です。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/1962/

 今週もどうぞお元気で。

            日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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