皆さん、お元気ですか。

 東京両国の東京ファッションタウンという展示会場にまだおります。STAP細胞のNature誌の論文に2カ所の研究不正があったと認定した調査委員会の最終報告を受けて、理化学研究所の野依理事長以下の幹部が2014年4月1日午後1時から開催した記者会見がやっと終わりました。午後3時20分、しかし、理研の説明が極めて不明確で、記者達のアドレナリンは出っぱなしです。今も広報部長を取り囲んで質問中です。

 明確なことは、極めて限定された論文の6項目の疑義を調査した結果、2件の悪意による不正が存在することを認定しただけ。前のメールでも指摘しましたが、悪意という主観的なものを客観的に判断することは土台できない話しで、調査委員会の主観により、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子ユニット・リーダーは研究不正を犯し、共同研究者である笹井芳樹副センター長と山梨大学に転出した若山照彦教授には管理責任を問われ、そして幹細胞研究のトップ研究者である丹羽仁史プロジェクト・リーダーは不正には関与せず、研究後半に参加したので管理責任もないと断じました。しかし、無理してできもしない悪意(調査委員会の答弁ではいつの間にか、一般社会でいう故意だとトーンダウンしました)の立証をしたため、理研は罠に填まってしまったのです。

 不正認定を受けて、小保方さんが4月1日に「調査報告書に対するコメント」を発表、調査報告を受け取り「驚きと憤りの気持ちでいっぱいです。不正の認定された2点については、悪意のない間違いであり、理研の科学研究上の不正行為の防止に関する規定(2012年9月13日規定第61号)に規定されている研究不正ではないと訴え、今回の調査に不服申し立てをする」と表明しています。第61号規定は極めて杜撰な規定で、これに基づいて調査を行った調査委員会自体には同情しますが、STAP細胞騒動が社会に投げかけた研究不正の疑義を晴らすことは理論的に不可能であると思います。小保方さんのように単純な間違いで不正はないと主張する者に対して、僕等の常識(処理方法の違うSTAP細胞由来のテラトーマの写真を使うことは悪意がある)とは異なるから、悪意があり不正であると主張するのは、水掛け論に終わります。証拠の保全、疑義に対して釈明できる実験ノートや資料と代替の画像がなければ、機会的に研究不正(Misconduct)であると認定すべきであると思います。理研は第61号を早急に改定し、悪意などという文学的な言葉を取り去るべきです。小保方さんはコメントの中で、2014年3月9日に著者全員から、理研の調査委員会が不正と認定した2つの件について訂正した論文をNature誌に送ったと明言、これが本当でもしNature誌が取り下げではなく、エラーの訂正を受け入れた場合、理研の調査そのものの正当性に疑義も付きかねないリスクがあるでしょう。

 また、第61号規定のもう一つの欠陥は、不服申し立てを審査するのに、最終報告をまとめた同じ調査委員会が行うという利益相反を排除できないことです。通常裁判所なら上級審に申し立てし、第三者が審判を下します。理研の第61号の規定では研究者の人権を守ることはできません。もし裁判になれば息の長い裁判となるでしょう。ここで問われるのは、理研のガバナンス能力です。今回のSTAP騒動で問題となっている若手を登用し闊達な研究を行うことと、研究の公正なプロセスの担保と管理責任の調和は、第61号をこのまま放っておいてはとてもではありませんが、実現できません。

 他の共著者は今回の調査結果を受け入れるというコメントを発表しています。いずれもコメント本文の行数は、若山教授は5行、丹羽プロジェクト・リーダーは7行、いずれも男らしくわびています。しかし、小保方さんと共同研究を行い、実質上の論文の著者でもあると見なされている笹井副センター長のそれは40行にわたる長大な言い訳でした。要するに科学的な管理者として論文をチェックすることは出来なかったが、自らの研究室以外のデータであり、それらの不正が論文のストーリーや関連論文に矛盾しない(期待していた結果に対応する)結果だったからだと言うのです。論文を元データまで辿りチェックできず、適宜適正な指導をしなかったことは反省するコメントがありました。しかし、これで笹井副センター長は研究不正をしていないと調査委員会は免責しておりますが、若い研究者などが研究不正するパターンに指導教官の仮説におもねてデータを捏造するということがあることは明白です。笹井さんがSTAP細胞をNature誌に掲載する論文に仕立てるために「こんなデータが欲しいね」と呟いたことはなかったのか? この捏造の誘導に関して調査委員会はまったく調査をしている痕跡はなく、共同研究者の悪意の不在を検証できたとは思えません。今回の調査は、不正の認定を6つの課題に対して行っただけで、悪意と不正が存在していないことの免責を与えるほどのものではありません。悪意ある研究不正を追及しようというなら、理研は本腰を構え第三者委員会を作って調査しなくてはなりません。しかし、それでもディオバン臨床研究データ操作事件の調査委員会で明らかになりましたが、強制調査する法的権限がなければ、真相を究明することは不可能なのです。悪意を証明することは、無理であるとまず理研が告白するのが肝心です。悪意の証明が本人の自白以外に不可能なら、調査しなくてはいけないのは研究が正しいプロセスで行われたのか? であります。調査委員会の報告で、「3年間で実験ノートは2冊しかなく、日付けもとびとびしか記入されていなかった。このノートからSTAP細胞の存在を証明するのは困難。小保方さんは私物のパソコンでデータ管理しており、理研のデスクトップパソコンを使用しておらず、データの保全が難しかった」という発表は誠に参考になる証拠です。悪意はともかく、とても第三者に再現性を保証し、科学的な真実を証明する証拠を正当に記録していたとは思われない。また、こんなノートしかとっていないことを、共同研究者は何故気づかなかったのか? 深い疑問も浮かびます。

 そして注目しなくてはならないのが、Nature誌の2つの論文の著者の貢献(Author’s Contribution)です。小保方さんと笹井さんは両方の著作で筆者であり、実験も行ったと明記されています。この記述と、本日公表された笹井さんの言い訳は明らかに矛盾する。笹井さんは言い訳のコメントで、自分自身の言葉で釈明と開設を調査委員会終了後は行うと論じております。その際は、実験の誘導の有無、センター長戦略研究として秘密研究を行ったプロセスが不正の温床になったのはどうしてか? 研究での実際の貢献の度合い、副センター長として管理責任など、聞いて見たいことは山ほどあります。

 既に理研のCDBの広報には取材のお願いを調査報告が発表された直後にメールしております。日本の科学の信頼回復と研究者個人としての信頼回復のためにも、是非とも笹井副センター長の疑義に対する申し開きと、正しい科学のプロセスを理研が行うための改革のアイデアを伺いたいと思っています。

 くどいですが、トカゲのシッポ切りで問題が終息するとはとても思いません。欠陥がある第61号規定に基づく調査委員会の最終報告は、その限界を露わにし、理研の新しい問題の存在にメディアや社会を気づかせた点では有益であったと考えます。

 理研の改革に向けた第三者委員会の委員構成に注目です。これが期待外れであると、研究不正は一研究機関ではマネージできず、米国の研究公正庁(ORI)のような第三者的政府機関が必要だという判断となるかも知れません。いずれにせよ、わが国の生命科学研究の未来を左右する1年間となるでしょう。皆さんも、覚悟しなくてはなりません。

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            日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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