2月12日にいわゆる難病法案、「難病の患者に対する医療等に関する法律案(仮称)」が閣議決定されました。世間では、対象疾患が56疾患から300疾患に増え、受給患者数が78万人から150万人に増大するのに伴って自己負担額が増大することについて議論が巻き起こっていますが、見落としてはいけないのが、この法律が希少疾患の治療薬開発に大きな意味を持っていることです。法律の運用指針となる厚生科学審議会が昨年12月にまとめた「難病対策の改革に向けた取り組みについて」では、基本理念として「難病の治療研究を進め、疾患の克服を目指すとともに、難病患者の社会参加を支援し、難病にかかっても地域で尊厳を持って生きられる共生社会の実現を目指す」と、治療研究が最初に挙げられています。

 希少・難治性疾患に対する治療薬の開発で大きなネックとなるのは、その名の通り患者数が少ないことです。臨床試験の被検者が集めにくいという問題以前に、そもそも疾患が知られておらず、診断できる医師も少なく、疾患の自然経過が分からないことから臨床評価の方法も決められないといった多くのハードルがあります。これを解決する方策の1つが、患者レジストリの構築です。

 欧米では希少・難治性疾患に対して「rare disease」という言葉が使われるのに対して、日本では「難病」が主流でした。これは、福祉という点に重点が置かれていたことを表しています。日本における難病対策は欧米に比べても早い時期から行われており、1972年に「難病対策要綱」が策定されてから40年が経過しています。しかし患者レジストリの構築という観点からみれば、現在の調査票による患者登録は疾病概念の変化に対応しておらず、福祉という観点を重視するあまりデータの正確性が保証されない、データの入力率に地域によりばらつきがあるといった問題がありました。

 これに対して新法では、「医療費助成を行うことにより、一定の症例を確保し、蓄積できた難病患者データを研究事業に結びつけることで治療研究に役立てる必要がある」と、今後整備される難病患者データベースへの登録を、医療費助成の支給や認定審査と連動させることを明記しました。また診療体制の整備を行い、各都道府県が「難病医療拠点病院(総合型)」を3次医療圏ごとに1カ所、「難病医療地域基幹病院」を2次医療圏に1カ所程度設置することで、患者の集約を図ります。

 実は2月28日のRare Disease Dayの前日に、グラクソ・スミスクライン(GSK)の社員を対象とした勉強会にお邪魔してきました。Rare Disease Dayは希少・難治性疾患の認知度向上を目的に2008年にスウェーデンで始まったもので、日本でも2010年から様々なイベントが各地で開催されています。またGSKは2010年にGSK Rare Disease(グローバルユニット)と希少疾患医薬品開発センター(日本)を設置し、希少疾患治療薬の開発に取り組んでいます。

 国立保健医療科学院研究情報支援センターの水島洋氏による「希少疾患に係わる欧米における患者会/NPOの活動」と題した講演では、上記の難病法に関する話に加えて、海外のレジストリ構築の状況についても知ることができました。興味深かったのは米国の話です。米国ではこれまで、NPOや患者会が希少疾患対策の中心でした。これに国がソフトウェアを提供するなどして登録を支援することで、製薬企業へのアプローチを促進する方向に動いているそうです。つまり、寄付金による運営から事業への転換を促しているわけです。患者も治療法の開発に役立つならと否定的ではなく、自立を重んじる米国らしい話だなと思いました。

 日本では今、希少疾患難病連絡会など、様々なレジストリを統合しようという動きも出てきています。また、国際希少疾患レジストリー(Global Rare Disease Registry)など世界的なアライアンスも進んでいます。希少疾患治療薬の開発には通常の大型新薬と同等のデータが必要である一方で患者数が少ないという大きなハードルが、一気に乗り越えられることを願ってやみません。
                      日経バイオテク編集長 関本克宏

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