少し前の話になりますが先週、ある臨床研究のキックオフ会議を取材しました。「GI screen 2013-01」(研究代表者は国立がん研究センター東病院消化器内科医長の吉野孝之氏)と名付けられたその研究の目的は、日本人の大腸がん患者におけるマイナー変異を含めた遺伝子変異の割合を明らかにすることです。

 大腸がん患者では、KRAS遺伝子変異(codon 12、13)が良く知られており、この遺伝子変異があると抗EGFR抗体の治療効果が得にくいと考えられています。ただし、このKRAS遺伝子変異が認められないからといって、全ての患者に抗EGFR抗体が効くわけではありません。

 というのも、KRAS遺伝子変異にはcodon 61やcodon 146といったマイナー変異が存在することが分かっているほか、BRAF遺伝子やNRAS遺伝子、PIK3CA遺伝子に変異があっても、同じように抗EGFR抗体の効果が得にくい可能性が示唆されているためです。これまでのところ、日本人の大腸がん患者におけるマイナー変異の頻度はよく分かっておらず、それを明らかにしようというのが、今回始動したGI screenです。

大腸がんのマイナー変異の割合調べる多施設研究が始動
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20140214/174151/

 もっとも、これだけでは既存薬が効かない患者を洗い出すだけに終始しかねません。重要なのは、一方で製薬企業がこうしたマイナー変異を狙った分子標的薬の開発を進めようとしていること。非常に稀なマイナー変異を持つ大腸がん患者を拾い上げられれば、新薬の治験に、患者をつなげる可能性があるのです。特に今回の研究では、大腸がんの組織型やKRAS変異の有無、化学療法や放射線療法、抗EGFR抗体の投与歴などの臨床情報を収集。追加の治療内容や転帰なども含めた臨床情報を2年間にわたり、一定のペースで更新することになっています。

 実はこうした取り組みは、肺がんを対象に既に国内で行われています。「ALK肺がん研究会」(ALK-Lung Cancer Study Group)が、EML4-ALK遺伝子を持つ肺がん患者を洗い出し、ALK阻害薬の海外での治験への橋渡しを行ったり、「LC-SCRUM-Japan」が、RET融合遺伝子陽性の希少な肺がん患者を拾い上げて、バンデダニブの医師主導治験への登録を進めたりしています。

始まったRET肺がんのスクリーニング(日経メディカルオンラインより)
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/cr/201306/530555.html&pr=1

 GI screenには既に、複数の製薬企業が興味を示していると聞きます。もちろん、臨床研究と製薬企業の治験とを線引きし、患者が不利益を被らないようにするとともに、製薬企業が研究成果を利用するためのルール作りは必要ですが、こうした研究が新規抗がん剤の開発を後押しすることは間違いなさそうです。

 2月から日経バイオテクに異動してきました記者の久保田と申します。これまで約5年、日経メディカルという臨床医向けの雑誌に所属し、終末期や認知症など、高齢者医療ばかりを取材していました。治らない医療の話ばかりだったので、その知識や経験が生きるかどうかは正直不明ですが、頭を切り替えつつ、読者の皆様のお役に立つような記事を発信できればと思います。どうぞよろしくお願いします。