皆さん、お元気ですか。

 デビスカップのワールドグループの第一回戦を、錦織選手のシングルとダブルスでの大活躍により、わが国が始めて突破、サッカーより一足先にテニスが世界のベスト8に進出しました。次は4月に東京でオランダとチェコの勝者(多分チェコ)と準決勝進出をかけて戦います。しかし、デビスカップになる前には日本が準優勝したことが1回だけあったようですが、デビスカップになってワールドグループに上がる予選を勝ち抜くことはほとんどなく、テニス関係者からすれば夢のようなことが起こりました。対戦したカナダのトッププレイヤーが全豪で怪我をした幸運もありましたが、今回の夢の実現は、10代の錦織選手の才能を認めた関係者が支援して、ここまで育ててきたエリートシステムの勝利であると考えています。わが国でも、もし医療イノベーションで世界に勝負するならば、才能を抜擢する英才システムが必要です。英語の能力別授業導入にもたもたしている場合ではありません。社会の宝を、どうやって育てるか、そしてそれを嫉妬ではなく、歓びと感じられるか?選抜された才能にも、つまらぬ選人意識に囚われることなく、社会の支援を社会に還元するノブレスオブリジェを叩き込まなくてはなりません。二年前の全米で戦う意味を見失った錦織選手が、デビスカップの予選で国民の期待を背に戦うことで、新たな戦いの価値を見つけたように。。。

 さてバイオです。

 札幌医科大学が本日、ニプロの寄付により「再生治療推進講座」の開所式を2014年2月6日に開催することを発表しました。前回のメールで、札幌医科大学の本望教授らが自己骨髄細胞を培養した間葉系幹細胞STR01によって脳梗塞患者の医師主導臨床試験を展開していることに言及しましたが、やっとそのスポンサーとしてニプロが開発研究を支援することが明らかにされたのです。いよいよ脳梗塞患者の再生医療に実用化が見えて参りました。再生医療だけでも相当な機能改善が期待されますが、夢を語れば、こうした間葉系幹細胞治療と以前のメールで紹介した、ロボットスーツHALによるリハビリが組み合わされれば、発症後1ヶ月程度で従来のリハビリでは症状が固定されてしまいましたが、この夢の組み合わせならば、脳梗塞患者のQOLを、あるいは機能改善が期待できます。いずれも日本発の技術、この組み合わせが私たちの高齢化社会を少しはバラ色にしてくれるでしょう。

 さて、ここで質問です。札幌医科大学がGMP製造した間葉系骨髄細胞にSTAP細胞は含まれていたのでしょうか?
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20140123/173488/

   2013年2月15日に脳梗塞の医師主導治験届を提出、実際には昨年の5月連休明けから患者の登録を開始した。初年度はGMP細胞培養施設を初めて運転することもあり、慎重に試験を進めた。現在、5例登録、これはフェーズIII臨床試験なので、最終的に110人の登録を目指している。今年から年間数10人レベルの登録が期待できるため、2年から3年で登録を終了したい計画だ。対照患者は、発作後40日以内を対象として登録、60日以内に細胞(1億個程度)静脈投与する。通常後遺症は1ヶ月で自然回復が終わり、症状が固定された患者を対象とする。

 エンドポイントは、3月後のモディファイドスコア(患者の生活能力)。これは介護度にほぼ相関する。医学的有用性だけでなく、医療経済的な効果もこうしたスコアなら評価できることを期待している。PMDAとのやりとりで、患者の生活改善が重要、多少神経症状が良くても駄目であると確認したため、モディファイドスコアを採用した。

 患者さんの腸骨から採取した骨髄細胞を2週間培養、最終的にはシャーレ120枚分に増殖、それを集めて細胞1億個を点滴静注1時間で患者さんの体内に移植する。もう一つの特徴は患者さんの自己血清を使い、この細胞(STR01)を培養する。静脈注射したSTR01は動物実験では脳梗塞巣に移動し、組織の再生を促進する。また、事前の臨床研究でも、その効果は確かめられている。そのため、今回フェーズIII臨床試験から治験を着手することができた。

 最大の問題はGMP製造にある。臨床試験でPOCが取れたとしても、コストが膨大では幅広く患者に恩恵を返すことができない。「GMP製造はランニングするのも大変、施設を造り上げ査察をクリアするのも大変。すべてが大変」(本望教授)。最大の問題であるコストは、実験室レベルは10万円でできるが、GMP製造すると少なくとも300万円(製造100万円、検査100間円、環境モニタリングとドキュメント100万円)は必要だ。これに+人件費+GMPの維持+原価償却などを加えれば、1000万円以上はかかってしまう。今のままだと事業化は無理なのだ。

 今回の寄付講座ではフェーズIII臨床治験の結果がでる前に、コスト削減と品質安定を実現するための技術開発を行う。機械化や自動化など、やらなくてはならないことは山積みだ。再生医療の実用化の目前の産みの苦しみのステージに、札幌医大・ニプログループは突入しつつあるのだ。

 さて冒頭の問題の答えは? あるかどうか判らないが、シャーレからトリプシン処理で浮遊細胞化しただけで、細胞の体積は小さくなり、幼若化する。STAP細胞のような現象は再生医療の研究者ならいたるところで直面しているはずだと本望先生。結局、細胞はダイナミックに変化するので、その製造プロセスを厳密に管理しないとSTAP細胞のような現象は常に起こる可能性がある。商業化するためには、GMP製造で厳密に製造しないと、同じ名前の例えば、間葉系幹細胞では性質が異なることは容易に起こりうるので、やはり再生医療にはGMP製造がどうしても不可欠である。これは学問研究にも当てはまる可能性があり、再生医療で物を言うためにも、GMP製造のような細胞の製造手法と製造物の品質管理が避けられないということになります。今までの再生医療の論文も相当、疑ってかからなくてはなりませんね。

 明日は冷え込みます。皆さん、どうぞご自愛願います。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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