あなたの未発表データも「捏造」扱いの危機【日経バイオテクONLINE Vol.1991】

(2014.01.15 18:00)
増田智子

 先週金曜日、アルツハイマー病の臨床研究J-ADNIに関する報道が相次ぎ、その臨床研究の姿勢に対して一斉に批判がなされました。J-ADNIは日経バイオテクでも継続して取材している大型の観察型臨床研究です。

https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20131007/171318/

https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130422/167552/

https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/7161/

https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/1496/

 朝日新聞の報道では、J-ADNIの面談検査のデータに改ざんの疑いがある、としています。ただ同紙の記事は、おそらく時制をあいまいに書いているせいで、改ざんと言えるのかよく分からないところがあり、気持ちの悪さが残りました。

 科学研究で「捏造」「改ざん」ということが決定的になるのは、査読付きの論文誌に発表した論文でデータに偽りがあったことが示された場合です。J-ADNIによる紙の発表は、PubMedで検索しても8個しかヒットがありません。研究論文はどれもPETに関するもので、今回問題になっている面談検査のデータが含まれているとしても、その関与の度合いはかなり低そうです。科学論文の取り下げやデータのねつ造に関するニュースを収集しているウェブサイトのRetraction Watch(http://retractionwatch.com/)も「このケースは論文取り下げの対象になりそうだけど、その論文があまりない」と評しています。

 実験室や臨床の現場から得られるデータは混沌としており、論文をまとめる際はそれを解析して、明らかにおかしいものは除外して考察する必要があります。変なデータが出る原因は、「大学4年生が試薬の量を3桁間違えた」から「被験者の状態が悪すぎて投薬を継続できない」までさまざまです。このようなケースは普通、「捏造」とは言われません。得られたデータを除外することは、論文に理由を記載すれば「改ざん」にはなりません。新薬の臨床試験においては、試験から脱落した患者の数を書くのは普通のことです。今回、非難の対象になっていることの、何が良くないのかを報道から理解するのは非常に難しいです。もし、1施設で実施されているプロトコールが、試験の共通のものと違うのであれば、取ったデータは考察の対象から除外し、次の被験者から合うようにすればいいのです。

 論文未発表の生データの段階で、実験計画から逸脱したデータを「捏造」や「改ざん」と言われるようになると、科学研究の現場ではいかなる失敗も許されないようになります。このような雰囲気は、ミスを隠ぺいしたり、互いに密告しあう体質を育む温床になる可能性があります。例えば、顕微鏡画像を上下反転して見ていただけで「捏造の意図」などと言われるようになったら、トイレに隠れて考察しないといけなくなるかもしれません。また、悪い先例として、20世紀の独裁国家の研究所ではきれいなデータしか出なかったということも聞いています。国家の方針に合わない結果を出したり、実験に失敗した科学者や技術者は、遡及的に「居なかった」ことにするのが可能だったためです。

 今後も増えていくであろう、多施設にまたがる研究では、前例のないところで研究者が協力して困難を乗り越えていくという姿勢が重要であるため、お互いが警戒し合うような雰囲気は避けたいところです。

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                      日経バイオテク 増田智子

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