新春展望2014、「BaNZaI」と「入口」と「出口」と「理念」と「熟考」と・・・

(2014.01.02 00:00)
佐野 毅=BaNZaI発起人 

皆様 あけましておめでとうございます。
本年もご教授・ご支援よろしくお願いいたします。

さて、楽しいお正月をお迎えのことと存じ上げます。
ご興味お時間の許す限り、ご笑覧いただければ幸いです。

「BaNZaI」

 5年程前の懇親会の席で、某省エリート官僚が、「どうしてバイオ村(業界関係者)の方々は、影でお互いを批判ばかりしているのか? どうして協力しあえないのか?」と辟易した顔でいわれました。当時、新参者2年目の私も同じくもどかしさを感じていました。一種のカンターカルチャーとでもいいましょうか。ワクワクしながら未来を語り、業種を越えた立場で楽しく前向に意見交換できる「場」、異なる意見に傾聴し、気付きを得ることができる「場」、そして、その「場」自体を自律・利他的に行動する人々で運営するBaNZaIという勉強会を有志と共に2009年6月に立ちあげました。

 ゴールは「日本発のシーズを世界の患者へ届ける」です。バイオ・メディカル産業に直接関わるアカデミア、起業家、投資家、製薬企業だけでなく、支援する商社、官僚、弁護士、会計士、コンサル、ジャーナリスト等の職種を背景に20代から60代まで、大学院生から大企業役員、業界の重鎮までの多様性をもったメンバーから構成されています。最近は、元気の良い若手が多くなり、平均年齢は30代前半といったところでしょうか。勉強会を通じて、異なる立場の意見を傾聴し、自らが気づくこと、それをそれぞれの持場で実行すること、また、メンバーの知見が伝播することによってバイオ・メディカル産業エコシステムを、1mmでも自律回転させることができればうれしいです。実際、某省の政策のヒントになったり、メンバー同士のビジネスに発展しているケースもあります。

 昨年の勉強会のテーマは、「起業の仕方:資金調達編」「創薬ベンチャー500社構想パート1」「All aboutバイオベンチャー関連契約~日米比較を中心に」「臨床開発とCROビジネスの“いま”と“これから”」「予防医療」の5つでした。どの勉強会も素晴らしいものでしたが、いかにもBaNZaIらしい勉強会として、以下に2つの事例を紹介します。

「起業の仕方:資金調達編」
 某ベンチャーのA社長が、VCからの資金調達を考えていてメンバーから意見を聞きたいというのが企画の始まりでした。まずベンチャー支援で有名な増嶋弁護士、前川会計士からの最新の資金調達にかかる制度概要の説明をしました。次にケースとしてA社長が60ページもの架空の事業計画書をコンパクトに説明し、質疑をしました。

 参加者の起業家からは、製薬に対して厳しいライセンス条件で臨むべきとのコメント、米国のベンチャーに投資経験豊かなVCからは、仕掛りのパイプラインは、製薬企業の興味と合っているか? 大手製薬元研究者からは、実験の結果を、こう表現したら良いのではないのかとのアドバイスがありました。

 A社長からのメンバーへのメイルの一部を紹介いたします。
「今回の勉強会は我々にとってはかけがえの無い財産になったと思っております。懇親会でも貴重なご意見を頂きましたが、1つ皮がむけた気分です。さっそく頂いたコメントを元に鋭意邁進していきます」

「予防医療」
 社会に大きなインパクトを与えたアンジェリーナ・ジョリーの乳がん予防のための両乳房切除、テクノロジ−を扱う科学者だけでは、社会とのコンセンサスが取れないテーマです。元VCのTさんが予防医療を扱う某企業の新規事業部に転職したこともあり、このテーマをいろいろな立場と角度から6人が10分間プレゼンし、参加者とインタラクティブに質疑を展開するという企画に結実しました。

 ジャーナリストからは、「予防」と「治療」の定義、新規事業者・ベンチャー3名からは、それぞれの予防医療のビジネスの紹介と課題、製薬企業(事業開発)からは、多くの人が健康を享受できる情報データベース構築構想、製薬企業(政策担当者)からは、現行の日本の法律の中での「予防」の位置づけを中心に、それぞれの視点から最新のお話をいただきました。演者のプレゼンは、まるでTEDを見ているような素晴らしい内容でした。また質疑の内容には、今後の「予防医療」の論点が、多数出ていたと思います。

 当日久しぶりに参加した某VCは、これだけの質高いプレゼンと質の高い質疑に、感動したといっていました。当日の参加者は、それぞれの気付きを現場で活かしているともいます。

 また設立2年目から、毎年BaNZaIの有志メンバーが、バイオジャパンで起業家の卵・支援者を対象にした公開セミナーを、企画・開催し、高い評価をいただいています。

 昨年のバイオジャパン(http://www.banzaiweb.org/biojapan2013/)では、気鋭のベンチャーキャピタリスト5名を迎え、次世代バイオ・メディカル産業のエコシステムに向けた具体的な提案をいただきました。当日の様子はテレビ東京ワールド・ビジネス・サテライトでも放映されました。ちなみにこのプロジェクトリーダーは、東大の大学院生石川さんでした。年齢や経験値を問わず、やりたい人がリーダーシップを取るのがBaNZaIです。

「入口」

 アベノミクス・成長戦略の政策としての、実用化・ベンチャー支援のために多額なライフサイエンス分野へ予算が計上されました。「歴史は繰り返す」といった賢人のことわざがあります。どんなビジネスでもお金は必要ですが、それだけが成功要因とはなりせん。過去のバイオバブルから謙虚に学び次に活かす熟考が必要と思います。

 今回の実用化への支援とは別に、そもそも国が提供する研究資金のあり方、とはなんでしょうか?

 「サイエンスビジネスの挑戦」(日経BP社)でゲーリーピサノ教授が「バイオテクノロジーの土台となるサイエンスは常に揺れ動いている」と述べています。つまり他の産業と比較し、技術よりも基礎科学での発見がビジネスに大なインパクトを与えているのです。つまり、ファーストインクラスの創生には基礎科学の貢献が不可欠です。

 そのため製薬企業は基礎科学の担い手であるアカデミアとのオープンオープン・イノベーションを進めているわけです。

 ところで、山中先生のiPS細胞の研究の緒は、奈良先端技術大学での基礎研究でした。こうした基礎研究への研究資金拠出は政府のみが可能ですし、政府の責務とおもいます。また、かつての山中先生のように地方大学にいるキラキラした若手の優秀な研究者にも、研究モチベーションが維持できるよう十分な資金を配分してほしいと思います。  なお、以下は、山中先生のお言葉です。
「日本は天然資源のない国ですから、基礎科学でどれだけ知的財産をつくれるかが未来にとって大事だと僕は考えます。」
http://shuchi.php.co.jp/article/1174?p=2

「出口」

 バイオ・メディカルの出口で議論されるのが、財源の問題です。主な背景には、税収入と医療費とのギャップの拡大、また再生医療、細胞治療等への新たな分野への投資に対する回収です。

 高度で高額な医療は公的保険でなく、混合医療で給付すべきというような論調に出会うことがあります。しかし、この現行の日本の医療保険制度の土台となっている理念を理解し、提案しているのか甚だ疑問に思う事があります。

 互助・連帯を基本理念とし、雇用者と被雇用者が保険料を折半するフランスやドイツの「医療保険制度」を日本は導入しています。また英国は医療を受けるのは自己責任であり、救済の意味合いが色濃い理念のもと、税金を財源として医療を提供しているため、先進国中、医療費/GDP比が最低であり、NHS制度では、癌治療であってもウエイティングリストに載ってから治療を受けるまでに時間がかかるといわれています。そのため、大企業は従業員の福利厚生のために私的保険を利用しているのです。

 同じ理念で米国は、医療供給側が私的保険を作った歴史があります。共和党は、払える人が世界最高の医療を受ける自由があるとして産業を育成し、また民主党は、医療を受ける権利を保障するためメディケア、メディエイド、医療保険改革等でカバーを拡大しています。この二大政党の振り子のようなダイナミックな動きが世界一の米国市場を作り上げたといえます。一方、平均余命や乳幼児死亡率といったアウトカムとしての健康指標を見ると、極めて医療費の無駄の多い国であるともいわれています。医療制度に市場原理を部分的に導入し、効率化を促すことは可能かもしれないですが、市場主義のみで医療制度を設計することはできないことは経済学者のコンセンサスです。白熱教室で有名なサンデル教授も市場主義の限界を説いています。

 ということで、まずは以下のような議論から始めたいと思いますがいかがでしょうか?

「混合診療」は、互助の理念と整合性が取れるのか?
「混合診療」の土台となる理念とはなにか?その理念を国民が受け入れるのか?

「熟考」

 さて、とある友人から聞いた話です。

 東大や京大に当たる某国トップの国立大学医学部教授は、教え子に大きな影響があることから「クスリを選ぶ際の原則をどのように教えているのでしょうか?」と友人が聞きました。

 教授いわく「EBM、Safety、Priceの順番で選択するように指導している」

 さらに友人は
「Drug A の有効性は90%、 Drug Bの有効性は75%、価格はAが$5、Bが$1だとしたら、どう教えるのでしょうか?」とつっこみました。

 解答は・・・ なんだと思いますか? ちょっと考えてみてください。
考えてから下を読んでください。

  ↓

 今、考えたことが「解答です」

 教授いわく、
「授業では、こうしたケースを示し、学生同士に議論をさせ熟考させる。正解はない。他人から多様な考え方の学び一緒に考えることが重要だ。つまり、現場によって環境が異なり、その場で医師は判断しなければならない」

 日本の大学では、どのように教えているか実情は知らないですが、一般的に最近の日本人は、物事には「正解がある」と思い、拙速に回答を求めがちですし、また「空気を読み」ながら正解を探すので「自分の考え」がないこともあります。

 この事例を一般論に言い換えれば、「正解のない世界」を、「自らが考えること」、そして、他者の価値観と向き合い、自分なりの行動原則を打ちたてることを意味しています。なかなか大変ですが、これからの社会を担う若者に背中を見せるべく行動したいと思っています。

 BaNZaIの活動は、これまでは「入口」に焦点を当ててきました、つまり、技術、起業、資金調達です。しかし、ベンチャーや製薬・医療機器企業にとってのイノベーションは、医療を変え、患者や社会に価値を与えることです。そのためには、将来の「出口」を想定することも重要です。また、限られた財源の中で適正な医療資源の配分あり方、その際の理念、コンセンサス形成、公平性、アクセス、効率と納得のバランス、といった出口の課題を熟考することで、サービス分野でイノベーションが創出されるかもしれません。

 BaNZaIの活動は、メンバーの思いがエンジンです。メンバーには本業があり、私生活があり、余暇も必要です。よく4年半も活動が維持され、発展しているとあらためて思います。誰でも自分の思いを勉強会の企画として表現でき、誰もがそれをサポートすることができます。世界を変えるアイデアを披露するほんのささやかな「場」かもしれません。そして、今年も挑戦者への温かい前向きなコメント、ワクワクする議論、参加者自身が楽しむことを大事にしたい思っています。

 ところで、昨年ヘンリーミンツバーグ教授がハーバードビジネスレビュー7月号で「コミュニティシップ:社会を変える第3の力」と題した論文を投稿しています。「BaNZaI」の経験から肚落ちする内容でした。

 では、どこかでお会いしましょう。

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