日本人は、「農」には余り関心を持たないが、「食」には異常なほどのこだわりを示す。新聞などでも、「農業=補助金漬けの後進的な産業」との書きぶりを目にする一方で、和食のユネスコ無形文化遺産への登録決定や、食品や食材の偽装問題には、多くの日本人が強い関心を示す。しかし、「食の安全と安心」へのこだわりから、食材の産地や生産者に目が向くことはあっても、「食」の生産にリンが根源的に必要であり、その資源が枯渇しつつあることを知るまでには至らない。

 欧米では今、「世界の食糧の安定的供給には、リンを持続的に利用することが絶対的に必要である」とのパラダイムが関心を集めている。リンを持続的に利用できるかどうかは、世界の食糧問題の根幹にあるからである。とくに欧州では、社会や経済の仕組みを変えてでも、持続的なリン利用を実現しようとする取組みが始まっている。例えば、オランダは、下水処理場の施設を新設または改修する際には、必ずリン回収施設を導入することを決めており、昨年末アムステルダム市の下水処理場に、世界最大規模のリン回収装置が導入された。ドイツでは、今年から下水汚泥を含む有機性廃棄物を混合焼却する際には、先だってリンを回収することが義務付けられる。他の廃棄物と混合して焼却してしまうと、灰からのリン回収が困難になるからである。スイスは現在、下水汚泥をすべて焼却処分して、その灰を一時的に保管しており、2015年までには焼却灰からのリン回収を実施することになっている。欧州連合はまた、昨年European Phosphorus Platformを発足させ、広範な利害関係者を集めて、政治、経済、行政、産業と社会にまたがるシームレスな議論を行っている。米国でも、全米科学財団(NSF)の資金による「持続的な食糧供給のためのリン共同研究」プロジェクトが開始された。

 わが国は、リン鉱石を産出せず、リンのほぼすべてを海外からの輸入に頼っている。わが国はまた、食飼料の多くを海外から輸入しているが、その生産には海外でも大量のリンが消費されている。にもかかわらず、わが国ではまだ、持続的リン利用への取組みが国レベルで行われていない。国が欧米の動きをよく把握していないことや、持続的リン利用という新しいパラダイムが国民によく浸透していないところに問題がある。このため、今年3月10日(月)東京大学において、第1回「持続的リン利用シンポジウム」が開催される。本シンポジウムでは、人類の新たなグローバル問題である「持続的リン利用」について、広範な利害関係者を集めて議論を行う予定である。参加費は無料で「sympo2014@bio.eng.osaka-u.ac.jp」にメールで事前登録をすれば、誰でも自由に参加できる。

 わが国は、世界でも有数のリン消費大国である。もうこれ以上、リンを無駄に使って、世界の食糧の生産に必要なリン資源を枯渇させてはならない。2014年こそ、欧米の取組みなどが外圧となり、国の政策が持続的リン利用に向かう画期的な1年になることを望みたい。